あひるのゆめ
「昨日、あひるさんボートの船首になる夢をみたよ。」
「そりゃまた、ずいぶんシュールな夢だな。」
数馬の言葉に、作兵衛が苦笑して答えると、久しぶりに室町の夢だったな、と数馬も笑う。
今日は久しぶりに寒さも和らいで、空は青く風も穏やかだ。
藤内達を待つ間、数馬は公園のブランコをキイキイと揺らして、柵に座る作兵衛に言葉を続ける。
「ぼくは何も喋れないし、動けもしないから、誰もぼくだって気づいてくれなくてさ。 七松先輩がぼくを見てバレーをしようとしたんだよ。 怖かったあ。」
「夢の中でも不運なんだな。」
「うるさいよ。 でもそこで作兵衛が来て、備品で何してるんですかって、七松先輩からぼくを取り上げてくれたからほっとして。」
「おお。」
少し嬉しそうに、作兵衛が相槌を打った。
「だけど作兵衛も、ぼくだって気がつかないから、暗い用具倉庫の中に置き去りにしようとしたの。 あそこ、いわくつきのものばかりだから怖くて、遠ざかってく作兵衛の背中に訴えたくても声はでないし。」
でもね、と数馬はそこで言葉を切って、ふわりと笑う。
作兵衛は思わず見入ったが、数馬が続けた言葉は面白いものではなかった。
「藤内がね、それは数馬だって、言ってくれたの。」
ふふ、と柔らかに笑む数馬を見て、ふうん、と作兵衛はそっぽを向く。
数馬と藤内の絆は夢の中でも健在というわけだ。 おもしろくない、と作兵衛は思う。
「で、藤内が、元の数馬に戻したのか?」
「ううん、作兵衛が戻してくれたんだよ。」
「へ? おれが?」
話の流れからすると、藤内だろうと考えていたので、作兵衛はきょとんと数馬に視線を戻した。
「どうやって?」
「そ、それは、夢だから覚えてないよ。」
今度は数馬が作兵衛から顔をそらした。
肝心なオチを忘れんなよ、と不満気な作兵衛に、数馬はどうしても言えない、と胸の内で呟く。
悪い魔法をとくのは、王子様のキスだと相場は決まっているのだった。
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