数馬が扉を開けると途端に賑やかになる。
どこかで待ち合わせしてきたのか、かつてのろ組と藤内が揃って数馬にお邪魔しますといった。
居間のテーブルに各々筆記用具を並べてクッションの上に座ると、付箋だらけの参考書を真ん中に広げる。
数馬と藤内も自分達の教科書と授業でとったノートとを用意した。 クーラーはつけずに窓をあけ放して、扇風機を回す。 今日は湿気がそれほどでもないので、これで充分だ。
「そういえば孫兵って、今海外なんだって。」
隣に座った藤内が数馬に向けて言うと左門がパッと顔をあげる。
「孫兵は毎年、家族で海外だ。 」
その言葉をノートに数式を書き付けながら引き継いだのは作兵衛だ。 藤内の正面に座った彼は頬杖をついて眉根を寄せる。
「その度、虫やらなんやらの写真が増えるよな。」
「へえ、孫兵はやっぱり相変わらずだね。」
数馬が笑って、その様子なら孫兵は受験勉強も必要なさそう、と笑う。
それに、三之助がやけに神妙にうなずいた。
「元い組、とか関係なくさ、あいつ虫とか好きなもん飼っていい代わりに勉強だけはきっちりやれって言われててさ、あいつに聞けば大体の問題解けるよ。」
「教え方に癖あるけどな。」
「虫のためって言うのがあいつらしい。」
藤内がペンをくるりと回してそういうのに数馬も同意して笑う。
「さーて、現役さん。 楽しいおしゃべりはそこまでにして、きっちり教えろよ〜。 こっちは受験かかってんだからな。」
三之助が言うのに、数馬と藤内はあわてて身を引き締める思いで姿勢をただす。 正直、勉強はあまり得意でないし好きでもない。 室町の時だってろ組に勉強を教えることなどほとんどなかったのだ。



「わかった! 数馬は、国語、英語! 藤内は理科、社会でいこう! 算数はなんか僕らの方ができる気がするぞ!」
はじめて二時間ほどたってから、左門が声をあげた。
それに三之助も同意する。
「だな、算数は教科書とノート見せてもらうだけで充分だな。」
「うう、面目ない・・・。」
藤内と数馬がうなだれる。 全く人に教えると言うのは難しい。
二人でああでもないこうでもないと相談しながらの説明はまったく要領を得なかった。
そよりそよりと、外から入る風と室内の空気を扇風機がかきまわしていく。 頬にその風が当たるのを感じながら作兵衛はうめいた。
作兵衛が苦手な科目は、数馬の担当になる。
できれば――、できれば数馬には教わりたくない。 変な意地と言われても、数馬にはいい所だけ見せていたい。 それはなかなか叶わないことだけれど。
そんな思いでちらりと数馬を見やれば、微笑まれた。 数馬は弾む声で笑う。
「作兵衛はこっちだね。」
「・・・んだよ、その嬉しそうな顔は。」
複雑な気持ちで作兵衛が眉をしかめたけれど、数馬は変わらずにこにこと笑って作兵衛の隣に座った。 その場所にいた左門は隣、三之助の位置に移動して、三之助は数馬の元いた場所、藤内の隣に座る。
突然の席移動に、作兵衛は目を丸くした。
「この方が教えやすいから。 作兵衛はね、お話深読みしすぎだよ。」
その言葉に、昨日の孫兵との会話を思い出した左門と三之助が吹き出した。
首を傾げる数馬と藤内に、慌てて作兵衛が何でもねえよというけれど、説得力は全くない。
「いや、昨日似たようなこと孫兵が言ったからさ。」
「え、孫兵が? えへへ、孫兵と同じ事言ったなんて、なんか頭よくなった気分。」
笑いを含みながらの三之助の言葉を聞いて気をよくする数馬に、迷子は更に腹を抱える思いだった。
言葉は似てても、指してる物事がまるで違う。 孫兵は、作兵衛の数馬に対する行動と思考について言ったのだ。
それに気づかない数馬は頭がいいと言うより、鈍いといった方がいい。 作兵衛の顔は気まずさで真っ赤だったけれど、笑い転げる迷子も大差ない。
あんまり迷子が笑うので、勉強どころじゃなくなった。 お昼にしようか、と、数馬が立ち上がり台所へ行く。
相変わらずみんなが来ると賑やかになるなと、数馬はまた嬉しげに頬をゆるませた。




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