オレと数馬が二人きりってなんか珍しいよな、と三之助が言う。数馬は少し考えてから、そうだねと頷いた。
いつもの公園でいつものメンバーと待ち合わせているけれど、藤内、作兵衛、孫兵、左門は少し学校での用事がある為におくれている。
たまたま、三之助が迷わずまっすぐこれたのが幸いだった。 そうでなければこの公園で一人きりで待っていなくてはならなかったと数馬は思う。
ブランコの柵に二人は並んで腰掛けた。 三之助の言うとおり、何だか珍しい組み合わせで、どこかおかしな気持ちになる。
遠いあの頃もそうそう二人になることなどなかった。
「あのさ、いっこ、室町の事、聞いてもいい?」
三之助の言葉に、数馬は思わず身構える、けれど、断る理由もなかった。だって、もう終わったことなのだ。なにもかも。ただ覚えている、それだけ。
「いいよ、なに?」
「卒業してから、作兵衛に会わなくなったのって、避けてた? それとも、ただの不運?」
承諾してから間髪いれず言葉が返ってくる。思わず数馬の視界がくらりと歪んだ。核心だ。数馬はごまかしてしまおうかと 、少し考えを巡らせた。もう晩秋だというのに、白粉花の色が目にはいる。
「そこが、気になっててさ。別に、責めないよ。お前らの事だもん。俺がとやかく言うことじゃねえし」
まっすぐな三之助の言葉に、数馬は顔をあげて三之助の目を見た。その目を見ていると、言葉の通りだと、わかる。ごまかすのは、いいことじゃない。終わったことだと言うのなら、正直に話すべきだ。
「…避けてた、よ」
「そっか、教えてくれてありがとな」
理由を、どう言おうと思案していた数馬は、そのあっさりとした言葉に面食らってしまった。ぱちぱちと目をしばたいて、戸惑う声を出す。
「何でか、聞かないの?」
「聞かない。感情論に、なるじゃん?そしたらオレ、作兵衛の味方しちまうし。」
あっさり言う三之助は、自分の髪をぐしゃりと掻き回し、笑った。
「オレらさあ、…オレと左門と孫兵は、ほんとになんも知らねえんだ。落ち込む作兵衛にも、頑なに口をつぐむ藤内にも、何も聞けなかった。」
だからさ、と三之助は優しい顔で数馬を見る。こんな顔で笑う奴だったっけ、と数馬は追い付かない頭で考えた。
自分があの頃と相違を感じるように、三之助もまた、変わった部分があるのだと思いしる。それは、とても自然なことなのに、仲間のそういった面を見つけると、やはり不思議な気分になった。
「あと一個聞きたいんだけど、いい? 今の事」
「え、ものによるけど」
それでいいよ、と三之助は口にして、でも少し言いづらいのか、よそを見た。
「数馬って作兵衛の事好きなの?」
「…い、言いません!」
急に大きな声で拒否をする数馬に、三之助は顔を数馬に向けて、思わず、吹き出した。
「言いたくないなら、いいや。」
笑い顔のままの言葉に、数馬の顔に熱が集まる。なにか言い返そうとしたところで、公園の前に自転車が止まる音がした。
作兵衛だ、と認識した途端、数馬はたまらず立ち上がり、駆け出した。
「数馬!?」
「ごめん、帰る!」
帰るって、作兵衛たち待ってたんじゃん…と、三之助が言い終わる間もなく、作兵衛がいる入り口とは別の方から、数馬はいってしまった。
「あれ、数馬、いたよな?」
近寄ってきた作兵衛は首をかしげる。
「作兵衛を見て遁走しました」
「…え」
作兵衛の表情が固まったのを見て、三之助は苦笑する。
「避けられてるわけじゃないよ、今度は」
「今度はって……」
「むしろ、喜ばしいことだと思うな、オレ」
にししと笑う三之助に、作兵衛は、意味わかんねえと言って、頭を抱えた。
「数馬、ずいぶん顔に出るようになったよなあ。隠そうと思ったことに関しては、割合ポーカーフェイスだったのに」
「おい、なに話してたんだよ?」
先程まで、数馬がいた場所に、作兵衛は座る。訝しげな、そして責めるような目に、三之助はまた吹き出しそうに、なる。こっちはまた随分と変わらない。
何でも目に、顔に、態度に出る。
「作兵衛が喜ぶ話」
訳がわからない、という顔をした作兵衛を無視して、公園の入り口に自転車を止める孫兵に、手を振った。

「昨日行ったら数馬いないんだもん、驚いた」
学校につくなり藤内が眉間にシワを寄せるものだから、数馬は苦笑した。
「ごめん、ちょっと、まあ、色々あって…」
動揺してしまったのは、三之助がそんなことを言うとは思っていなかったからだ。そして作兵衛の顔を、見れなくなってしまった。
藤内が作兵衛の事を言わないのにほっとした。きっと作兵衛が気にしているなら、この友人は教えてくれるだろうから。
「今週の日曜さ、文化祭あるんだって、篠小の近くの高校。数馬行ける?」
「いける!」
「俺いけないんだよねえ」
藤内は残念そうに口にする。
「ええ、藤内行けないの」
残念そうな声に、藤内は申し訳なくなるとともに少し嬉しくなる。 数馬の中で自分の存在がそれなりに大きいようで。
「あと孫兵も用あるって言ってた」
「そうなんだー…」
足をぶらりと動かして、数馬は眉を下げる。
「て事はろ組にぼく一人? なんだかアウェーな気分」
そう言った数馬の頬が幾分赤いことに気づいて藤内は目を眇めた。
「数馬、今度は振り向かせるっていってたじゃないか」
藤内が水を向けたとたん、数馬は大いに慌てた。顔を真っ赤にして、泣き出しそうな表情にも見えた。
「な、な・・・・・・っ ととと、藤内!!」
「だって、言ってたよ。」
重ねていうと、数馬はあかい顔をゆるりと、藤内からはずし、自分の膝元へ落とす。
「言った…けど、やっぱり、難しい。 まだ、二人だと緊張するし、ダメだったらって考えると、怖い、よ」
小さな声で、数馬が言う。
「どうしよう、好きになるのが、怖い、みたい」
そんな数馬の弱音に、藤内は何も言わず、数馬の丸まった背中をやさしく叩いた。
窓の外は、空が晴れ渡り、気温もあたたかだ。木枯らしにはまだ、ほど遠い。
「藤内、みんなは、室町の事知らないんだよね?」
「…俺も作兵衛もなにも言わなかったからなあ…」
藤内は、自然に視線を上に向けて、あの頃の情景に思いを馳せた。
そうだ。自分達は言わなかったし、あいつらも、聞かなかった。 正直聞いてくれればよかったのにとも思ったものだ。
「まあ、室町の事はおいといてさ、いくだろ?文化祭」
「うん、そうだね。 藤内のこと忘れて楽しんでくるよ。」
「忘れるなよ! 俺の分も、だろ」
藤内が口を尖らせていうのに、数馬は笑った。 予鈴がなって、朝のHRの時間を知らせた。




もどる