気になってたんだけど、と、三之助が作兵衛のクッキーに手を伸ばして、藤内と数馬に向き直った
「2人って付きあってんの?」
ぶっ
クッキーを取り返そうとしていた作兵衛が盛大に吹き出す。
その後、ぎぎぎ、と音でもしそうな様子で、藤内と数馬を見た。
確かに2人は親密だが、それは室町でもそうだった。 いや、現代ではどうかはわからない。
いやしかし、先程藤内と話していた時にそんな様子丸でなかった。
ぐるぐると思考が迷走する作兵衛を置いて、2人は目を見合わせて頷きあった。
皆に向き直って笑顔になり、声を揃えて問いに答える。
「「うん」」
「でええええ!? まじでーーーーー!!?」
作兵衛をのぞいた全員が、思い思いに声を上げた。
作兵衛はと言えば、完全に固まってしまっている。 微動だにしない。
藤内はくすりと笑って、手をひらひらと横に振った。
「あはは、うそうそ。 ね、数馬。」
「うん、そんなに驚くなんて思わなかったよー」
ほのぼのと笑い合う2人に、一同はぽかんとする。
「え? つまり?」
「えっと、付き合ってないって事でいいの?」
「うーわー、リアリティのある嘘反対!!」
「だって、否定すると余計に疑われるからさ、一回認めて、嘘でしたって言うと案外みんな信じてくれるんだよ。」
「随分聞かれるから、そう言う事にしたんだ。」
悪びれもせず言う2人に、一同は溜息をつく。
全く心臓に悪い、と孫兵が言った。
「作兵衛? きいてた?」
未だ反応のない作兵衛の前でひらひらと手をかざした藤内に、ようやく作兵衛が口を開く。
「・・・式はいつごろ・・・・・・」
作兵衛の言葉に、場がぽかんとする。
「聞こえてなかったみたいだなあ。」
「2人が肯定してすぐ妄想にとらわれたんだな。」
「作兵衛、せめて18歳にならないと式は挙げられないぞ!」
「ちょちょちょ、そんな突っ込みより誤解とかないと!」
「作兵衛、お祝言よろしくな!」
「藤内、悪のりしないでー! 作兵衛、嘘だからね!」
目をあわせて言う数馬に、え、と呟いた作兵衛の焦点が合う。
「嘘?」
数馬はほっとして、うん、と微笑む。
のを作兵衛は間近に見てしまって、頬に朱が走り、慌てて俯く。
三之助はもう一枚、作兵衛の皿からクッキーを奪って笑った。


「数馬、」
みんなが、菓子を食べながら談笑している中、作兵衛がささやくように呼んだので数馬は耳を寄せた。
否応なしに緊張する。
作兵衛に、どんな態度をとればいいのか見当がつかなかった。
もし、室町のことをふられたら、なんと答えればいいのだろう。
謝るしかできないけれど、もう、あの時のままの数馬ではないし、作兵衛だってそうだ。
謝って、許されるとも思えなかった。
どうしよう、と緊張する数馬と同様、作兵衛も緊張していた。
出来るかぎり平静に話をしなければ、と作兵衛は固唾をのむ。
また、数馬となんのこだわりもなく他愛ない話をして笑いあいたいから。 だからなんとしても伝えたい。
作兵衛は、弾む鼓動を沈めようと努力しながら、そっと口を開いた。
「おれ、変な態度だったよな? もう、大丈夫だからさ、その、」
言って、まっすぐ数馬の顔を見る。
(数馬も、緊張してるみてえだ。)
なんだか、それにほっとしてしまって、作兵衛の顔に笑みが浮かぶ。
ああ、そう言えば顔がずっとこわばっていたかもしれない。
「改めて、よろしくな」
作兵衛は、手を差し出す。
その手に柔らかな掌がのせられて、どきりとした。
「うん、よろしくね。」
嬉しそうに笑う数馬を見て、作兵衛は今初めて、再会を果たせたような気がした。


「じゃあ、それでいいかな?」
孫兵の言葉にはっとして、数馬と作兵衛は顔を上げる。
「え、なになに? なにが決まったの?」
「今度遊園地行く予定立てたんだ!」
「2人で話し込んでるから、勝手に決めたぞ。」
「え、いつ?」
作兵衛が問うと、楽しげに藤内が日曜だよと応える。
「駅前に9時な!」
「予定なかったよね? 数馬。」
「作兵衛も空いてたよな?」
藤内と三之助にそれぞれ問われた2人は頷く。
「よし、決まりだな!」
左門が立ち上がり、テーブルの上を片付けはじめた。
「あ、いいよ後でぼくがやるから。」
慌てて数馬が言うと、左門は手を止めずに、にかっと笑って言う。
「数馬元気になったな!」
「え」
唐突な言葉に、そう言えばと数馬は思い出す。
左門はやたら人の心の機微に聡い所があった。
人の話を聞かず暴走しがちな彼だが、弱っているものがあると不思議と気付く。
変わってないなぁと、なんだか嬉しくなって、数馬も笑んだ。

もう、外くらくなってきたね。
でも随分、日のびたよなあ。
言いながら、みんなで玄関に向かう。
「途中までぼくもいくよ。」
数馬が言うと、みんなはそれを断った。
「道はおれが覚えてっから大丈夫だ。」
「ん、オレも覚えてるぞ、作兵衛。」
「三之助は覚えた気になってるだけじゃないのか?」
「僕も同意見だけど、左門が言えた言葉じゃないよね。」
「・・・そっか、」
みんなの言葉を聞いて、しょんぼりと数馬は了承する。
きっと自分が男でも、同じように言われるだろう。
けれど、女の子として夜道を歩くのを心配されているような気もして、それが、少し寂しいと数馬は思った。
4人を玄関先で見送った後、藤内が感慨深げに呟く。
「数馬も作兵衛も、お互いの事になると室町との区別が難しくなるのかな。」
「え? なんて言ったの?」
藤内は一つ笑う。
春の風が優しく吹いて、どこからか花びらを運んできた。
桃色のそれがころころとアスファルトの上を転がっていく。
ひとりごと、と数馬に答えて自転車を動かす。
「また明日。」
「うん、明日ー」
ひらひらと手を振る数馬に背を向けて、藤内は自転車をこぎ出した。
風をきりながら、少し苦笑する。
数馬は、別に女の子扱いが嫌なわけではないのだ。
きっとそれは自分相手でなくても、左門や三之助、孫兵相手でもそうだろう。
ただ作兵衛にだけは、前と同じように接して欲しいと望んでいる。
全く、これからも2人には悩まされそうだなあと、藤内はもう一つ苦笑した。






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