その笑顔が


おれの、すぐ隣を歩いてついてくる数馬に、すごく嬉しくなってしまう。
数馬が笑うだけで、信じられないくらいに嬉しくて、まるでバカみたいだ。
もうじき春が来ると、咲き綻ぶ梅が教えてくれる。 春が来れば中学生になるそんな狭間に今おれらはいる。
「ねえ、どこへ行くの?」
「もうじきだって。」
表通りから外れてだんだん細くなる道に、数馬が不安げになってくるのに申し訳なくなってくるけれど、驚かせたいのだから、黙っている。
本当は手でも握れたらいいけれど理由なくできる事ではない。 さっき数馬が言っていた室町の頃だったら、躊躇う理由など何もなかった。 数馬も自分と同じ男だったのだから。 けれど今はふわりとしたスカートがよく似合う、女の子だ。
…それだけじゃない。 あの学園にいた頃には気づけなかった気持ちを今の自分が抱いていてはそう手を握れるはずがなかった。
「数馬、こっち。」
「ええ? フェンス破れてるよ、こんなとこ入っていいの?」
躊躇いながらも、数馬はおれの後をついてくる。 好奇心が勝ったのだろう。 フェンスをくぐった数馬を見届けて、おれはまた歩く。
向こう側からは見えない物陰まで来ると、数馬は息をのんだ。
辺りには、咲き誇る春の花。 ここは日当たりがいいから、咲くのが早いと幼い頃から篠小組で花見をしていた。 多分誰かの土地で、勝手に入り込むのが許されているのは子供だからだ。
もうじき、ここには入れなくなるだろうから、その前に数馬と来たかった。
どきどきしながら、数馬の反応を見守っていると、ぽつりと小さな声で、すごい、と言ったのが聞こえた。
「だろ? ここ見つけたの、幼稚園の頃あいつら探してる時でさ。 あんまり綺麗だから桜が咲くまでの間にな毎年花見してんだ。」
「…ほんとう、綺麗だ……。」
前を、花を見たまま、数馬が笑む。 それに、胸がいっぱいになるのはしょうがない。 ずっとずっと、数馬が見つかったら、ここに連れてきたかったから。 笑ってくれればいいと思っていたから。
また出会う事ですら奇跡に近いのに、そんな事を考えていた。
それが叶って、隣に数馬がいて、嬉しそうにしてくれて。 すごく嬉しいのに、それでももっとを望んでしまう。 もっと、もっと。
数馬の笑顔の前に、おれは段々欲張りになっている気がする。
数馬は、ようやくこちらを向いて花々に負けないほどの笑顔で、今度はみんなでお花見に来ようね、と口にした。
もともとそのつもりではあったけれど、どこか複雑になるのはきっと、もうしょうがない。
 



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