触れた手

じわり、と熱をもつ。

「あ、雨止まないね、」
「そそ、そうだな。」
軒先で、雨宿りしている2人はぎくしゃくと会話する。
事の起こりは少し前に、降り出した雨。

「お、数馬じゃねえか。」
「作兵衛、あれ、こっちにいるの珍しいね?」
スーパーに小麦粉を買いに来ていた数馬は、隣に移動してきた作兵衛ににこりと笑う。
「おー、母さんに卵買って来いっていわれてよ。」
「ああ、今日タイムセールでやるもんね。」
ぼくも買わなきゃ、と数馬が言う。
作兵衛は隣町に住んでいるから、なかなか偶然会うということがない。
だから、今会えた事が嬉しくて、数馬は自然笑顔になってしまう。
それを見て、作兵衛も嬉しげに笑った。
隣町のスーパーに行ってきてと言われた時は、めんどくせえ、と思った作兵衛だったが今は感謝の言葉しか浮かばない。
数馬に会う時はいつも、他の4人も一緒だし数馬の隣には常に藤内がいる。
それが今は2人きりだ。 目の前で揺れるゆるく編まれた三つ編みが嬉しくて顔がゆるむ。
家に帰ったら夕飯の手伝いするか、と作兵衛は決意した。

お互い買い物を終えて談笑しながら歩いていると急に辺りが暗くなって、やばい、と思った時には、バケツをひっくり返したような雨が、二人に降り注いだ。
驚いてぽかんとする数馬の手を慌てて掴んで、近くの店の軒先に避難したまではよかった。
問題なのは
手を離すタイミングを、作兵衛が見失ってしまったことだった。

サービスしすぎだ、神様。
作兵衛は心の中で呟いて、未だ止まない雨を見る。
冷たい雨に打たれた体は、それでも熱を失いはしなかった。


2011.10.21

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