冗談混じりの の続きです。
やきもち
「あ、それ藤内と食べたよ。」
コンビニで手に取った菓子を見て、横から数馬がそう言った。
先程からのこの近い距離に一人でドキドキしていて、自分でもバカみたいだと思う。
室町の時から言われているから、きっと今も顔に出ているのだろう。 秋も終わりだというのに、やけに熱い。
数馬に気付かれてないよな、とやっぱりドキドキしながら、口を開く。
「数馬も藤内も甘いの好きだよな。」
「うん。 でもそれはあんまり甘くなかったよ。 ビターで作兵衛もおいしく食べれると思う。」
「そか。」
ぽん、と既にペットボトルの入ったかごにその菓子を入れる。 自分の好みを把握されているというのは、少し気恥ずかしくてすごく嬉しい。
「あ、これ藤内好きなんだ。」
にこにこと、数馬はその菓子を取りおれの持つかごへと入れる。
だから近いんだって!
藤内藤内と口にする数馬は、よくこうして藤内と買い物をしているんだろうか。
そう思うと胸のどこかがざわりとして落ち着かない気持ちになる。
この二人の間には、色恋とは無関係に深い絆があって、それは男女と性別を違えても変わらないもので、それがおれはたまらなく羨ましい。
目をかわしただけで意思の疎通が出来てしまう二人を目の当たりにしたばかりだ。
藤内は数馬の一番の味方で、逆もまたそうなのだ。 数馬は何があっても、藤内が一番大事なのだと、思う。
「・・・今更、だよなあ・・・。」
「? なにが?」
「へっ!?」
やべえ、口にでてた!
ぱっと口を押さえるおれを不思議そうに数馬が覗き込んできて頭が真っ白になる。
くるりとまるい瞳も、室町の頃より柔らかそうな髪も、白い頬も、ふくりとした唇も、ものすごく近くにある。
わあわあと、心の中で騒ぎ立てていると、数馬の手がすっと伸びてきた。
熱を測る時の仕草だ。 それに気付いてひょいとその手をよけると、数馬はむっとしてこちらを睨む。
「ちょっと、なんでよけるのさ。」
「なんでって熱ねえもん。 それよか、はやく買っちまおうぜ。」
背を向けてそう言うおれに、数馬は文句を言うけれど、後をついてきてくれた。
今、額に触れられでもしたら、更に赤面してしまう事はわかりきっていたし、なにより、顔が赤いと見られた事がいたたまれない。
「もー、作兵衛の意地っ張り!」
どん、と軽く背中を押されて少しつんのめる。 後ろを振り向けば、機嫌の悪い数馬がいた。 心配してくれてるのだろうと思う。
「や、まじで、熱はねえから・・・。」
それでも、納得しない数馬の視線に結局おれが折れた。 もうどうにでもなれ、と数馬の手を取って自分の首に当てる。
「な? 平気だろ!!」
突然の事に驚いた数馬は目をぱちくりとさせて、自由な方の手をゆるゆると自身の首に当てた。
「ほんとだ、同じくらいだね。」
そう言う数馬の顔は赤くて、更に気恥ずかしさが増す。
掴んでいた手をゆるめると、数馬はぱっと手を引っ込めた。
その動作にまた胸が騒ぐ。
ああ、驚かせてしまった。 もっと、数馬には穏やかに笑っていて欲しいのに。 困惑した表情がなんだか可哀想で、悔しい。
藤内なら、絶対こんな顔させないだろうに。
数馬から目を逸らして、ぽつりと零す。
「数馬、さ、本当藤内と仲いいよな。」
「・・・え? 藤内?」
ぽかんと数馬に問い返されて、しまったと思う。
ああ、だから今更藤内と数馬に妬いたって仕方ないのに。 それでも口は止まってはくれない。
「藤内といる時が、一番楽しそうだ。」
我ながら、なんて言いがかりだ。 突然拗ねた口調のおれに、当然、数馬は困惑している。
どうしよう、と思っても出てしまった言葉は取り消せない。
どうしようどうしようと焦っていると、かごにコツン、と何かが当たった。
驚いてそちらを見ると、かごに菓子を入れている数馬がいた。
「これ、作兵衛すきだよね?」
「・・・おう・・・・・・。」
確かに、そうだ。 けれど数馬の意図する所がわからず、首を僅かに傾げる。
「ぼくがさ、藤内と仲がいいのは仕方ないよ。 でも、作兵衛といるのってまたちょっと違うんだ。 藤内と、作兵衛は、違うんだ。 ・・・うまく言えないけど、・・・わかってよ。」
俯いて言う数馬にどきりとする。 まさかと思ったけれど、やはり泣いてはいなかった。
数馬が顔を上げると、まるい目が光を帯びて、おれを見据えた。
きれいなきれいな、数馬の瞳。
おれはさっきの数馬の言葉に一つ頷いて、それからゆるりと目を逸らす。
数馬が伝えたい事の半分も、おれは掴めやしなかったけど、何か大事な事を言われた気がした。
かごには充分に飲み物も菓子も入ったから、レジへと向かう。
頷いたおれに、数馬は幾分安心したのか、おれの隣に並んでふわりと笑った。 それは確かに、藤内に向ける笑みとは違っていて、今はなぜか、それが少し嬉しく思えた。
・・・全く、どうしようもない感情だ。
やきもちなんて。
うるさく波打つ心臓と、顔に集まる熱は、しばらくおさまりそうになかった。
2011.11.19
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