偶然


次屋三之助は首を傾げた。
体育の授業でマラソンコースを走っていて、ようやくゴールだと思ったら見慣れない校門前に出てしまった。
どこだ、ここ。
とりあえず、グラウンドまで行ってみようかなあ、と思った三之助は校門をくぐった。
校門をくぐり、まっすぐ行けばスロープの下にグラウンドが見える。
三之助達が通う篠小よりも大きなそれに、マラソンを終えたばかりだというのに走りたくなってくる。
「さ、三之助えっ?」
ふいに自分の名前が呼ばれて、三之助はそちらを見た。
驚いた顔の数馬と藤内が立っているのを見つけて、三之助は右手を軽く挙げる。
「よお、偶然だな。」
「な、に、が! 偶然だ!」
藤内が頭を抱えて吠えた。 体操着でここに立っている、それだけで、藤内は事態を把握した。
三之助がマラソンの練習中に迷ってここまで来たと。
「三之助どんだけ走ってたの? 作兵衛怒ってるんじゃない?」
数馬が呆れたように言えば、三之助は少し考える顔になる。
「見覚えのある方にしか進んでないよ、オレ。 あ、でも、確かに怒られっかも。」
数馬の体操着姿見てるわけだし、と、三之助は口に出さないで付け足した。
「数馬、浦風、その子誰〜?」
二人のクラスメイトが、興味深げに近寄ってきたので、数馬が説明をしている。 その中には教師もいた。
「お前な、どうしたらこんな所まで迷ってる事に気づかないで走れるんだよ。」
「さー。」
数馬が説明している間に、藤内と三之助が会話していると、教師がこちらを向いた。
「今、電話するから。 えっと、クラスは?」
「六年二組ッす。」
「よし。 チャイムが鳴ったら、準備運動始めててくれな。」
最後の言葉は自分の生徒に向けて言い、教師は職員室へと戻っていった。
「あの先生、顔が笑ってたけど。」
「お前が、ここまで迷って紛れ込んでたのがおかしかったんだろ。」
藤内がまた呆れて言えば、三之助は少しバツが悪そうに笑った。
さっき予鈴が鳴ったので、もうすぐ本鈴もなるだろう。
迎えに来るまで、混ぜてもらおうと、三之助は準備運動に加わるのだった。



篠小六年二組に三之助が戻ると、作兵衛がその頭にげんこをおとした。
「てっめえ! マラソンコースくらい覚えやがれ!」
「作ちゃん乱暴! オレ、向こうでも体育の授業受けてたのよ!?」
「ますます何やってやがんだ! あっちでも迷惑かけて!」
ベランダ伝いに、一組から戻ってきた左門が三之助を見て、お、と笑う。
「三之助お帰り! どこの学校に潜り込んだんだ?」
「そうそれ言おうとしてたんだ。 数馬と藤内の学校行ってた。 ちょうど体育の授業が始まる前でさ。」
三之助はそう言って、わくわくしながら二人の反応を待った。
左門は爆笑し、作兵衛はぽかんと三之助を見る。
「羨ましい?」
かくんと首を傾げて三之助が言えば、作兵衛の、あほかーー!!と言う声が教室に響き渡った。


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