勘違いしたくなる


「数馬!」
ぼくを見つけた途端、笑顔になる作兵衛にぱちりと目をしばたく。
忍術学園の頃に重なって混乱しそうになるのを誤魔化す為に作兵衛に向かって笑顔を返せば、作兵衛はまた更に嬉しげな顔をぼくに見せた。
「どうしたの? こんな、校門で待ってるなんて。」
「今日うちの学校早く終わったからさ、どうせなら行ってみるか、と思って。 藤内は一緒じゃねえの?」
「藤内は先帰ったよ。 用事あるからって言ってた。」
「ん、じゃあさ、ちょっと付き合ってくれよ。」
どこへと問えば、すぐ近くだとだけ言って作兵衛はぼくに背を向けて歩き出す。
その背中を追いかけながら、室町の頃を思いかえす。
いつだって、ぼくを見つければ作兵衛は嬉しそうに笑った。
この、自分に向けられる笑顔に、昔も今も、勘違いしたく、なる。 少しでも、自分の事を好きでいてくれるんじゃないかって勘違いして、有頂天になりそうに、なる。
作兵衛は、きっと全然わかっていないでその笑顔を向けるから、それが何だかとても悔しい。
思わず重い息を吐けば、前を歩く作兵衛の背中が少し揺れた。
なんだよ、と振り返る作兵衛は眉根を寄せて睨むように僕を見る。 大した事じゃないよ、と答えると、作兵衛はぼくの横に並んだ。
「言いたい事あるなら、言えよな。 別に無理矢理付き合わなくても、いいし。」
作兵衛はぼくより背が低いから、少し下から、まっすぐに見据えられるその視線にまた胸が締め付けられる。
どくどくと脈打つ心臓にどうにかなってしまいそうだ。 そんなぼくに全く気づかないで、作兵衛はじっと伺う様にこちらを見ている。 全く相変わらず鈍いなあ、なんてのぼせ上がる頭の片隅で思えばなんだか、ますますあの頃を思い出してしまった。
一度、ぎゅっと目をつむって、めまぐるしい感情をやり過ごす。 そうしてぼくはにこりと笑う。
「ちがうよ、ちょっとね、室町の事思い出しただけ。」
作兵衛はぼくの言葉にきょとんと目を丸くした。
「室町?」
「うん、作兵衛の笑った顔、あの頃のままだなあって。 ぼくに会う時、大体いつも笑ってくれてたなあって。」
「な…ッなんで、それでため息吐くんだよ…。」
言って、また歩き出した作兵衛の耳が赤い。 照れてるのかなと思えば、今度は何だか笑いが浮かんでくる。
「ふふ、何でだろうね。」
ぼくも作兵衛の後に続いて歩き出す。 なんだよ、と文句を零しつつも、どこか満足げな作兵衛を見て、また一つ、勘違いしたくなる。




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