きみにぼくは/雪/孫兵


孫兵は、寂しげに降る雪を眺めた。
未だに冬が苦手なのは、大好きなみんなが寝てしまうからで、こんなにも白い白い、雪を、一緒に眺める事が出来ないからだったと、思い出すせいだ。
溜息を吐くと、雪とよく似た白い息がほわりと浮かんで消えた。
「孫兵? うわ、わわ、寒くないの、素手じゃない」
真っ赤になってる、と、ごく自然に手に触れてくる、毛糸の手袋をした数馬に孫兵は首を傾げる。
「数馬、あれ、なんでここにいるの」
「なんでって、」
孫兵の手を温めようとさすっていた手を止めて、数馬は決まり悪げに笑んだ。
「今日は学校早く終わって、藤内は用事あるって言ってて、暇で。 篠小覗いてみようかなって来てみたの。 そうしたら、なんか校舎に入ってもバレない気がしちゃって」
孫兵は呆れて数馬を見やった。 本当になにやってるの、だったらなんで校舎に入らないの、こんな寂しい校舎裏に――僕の前にいるの。 言いたい言葉がありすぎて、返って喉でつかえて出てこない。
「孫兵の手、本当に冷たい。 なんで手袋してないの」
「・・・・・・」
数馬は黙ってしまった孫兵の目をじっと見ていたけれど、やおら、その視線が緩んだ。 触れられた手と同様、温もりを感じるそれに、孫兵は首を傾げる。
「孫兵が、今、手袋をするはずがなかったね」
数馬の言葉が、とても温かく孫兵の耳に届く。 気付いたのだ、孫兵が何を思い出しているかに。
室町の頃、孫兵が惜しみない愛を注いでいた彼らには、頑なに素手で触れていたことを、数馬は知っている、覚えてくれている。 その事が嬉しいのは、彼らが生きたことが確かに現実だったと教えてくれるからだ。
記憶という物は本当に尊い。
ちらちら降る雪に、視界が白く染まっていく。 孫兵が天を仰ぐと校舎の窓が目に入った。 否、窓からこちらを見る、作兵衛の姿が目に入る。 ああ、そういえば手を繋いだままだったと気付いて、孫兵は薄く笑んだ。
「数馬、もう、大丈夫。 校舎へ入ろうか。 作兵衛も、中にいるよ、ほら。」
そういって、数馬に上を見るよう視線で示すと、こちらを見ていた作兵衛が、既にいないことに孫兵は今度こそ声を立てて笑った。 手をゆるりと離して驚きを隠さない数馬に、昇降口で少し待っていようか、と声を掛けて先に歩き出す。
きっと、作兵衛は必死でこちらに向かっているだろうから、行き違いにならないように。 そう思えば、また少し、笑えた。


素材: NOION

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