きみにぼくは/おそろい、ひだまり/左近、三郎次


左近と三郎次は、きょろきょろと辺りを見渡して、溜息を吐いた。
「なあ、ここどこだよ」
「地図も読めない僕に聞くなよ」
左近は誤魔化すように笑みを浮かべたが、力ない物になる。 ここへは以前世話になった教師の家に、結婚のお祝いに用意したプレゼントを渡したくて来た。 なのに地図を見ても一向にたどりつけない。 今見ている地図の、どの辺に自分達がいるかすら曖昧だった。
そもそも、普段は学校の寮に住んでいる自分達だ。 何駅も何駅も電車を乗り継いだこの町を、地図一枚で自由に歩けるはずもないのだと今更ながらに思い知って、左近も三郎次も頭を抱えた。
相手のせいにして喚き散らして発散しようかとも思うがしかし、ここで喧嘩したってどうにもならない。
「つぎ、誰かにあったら聞いてみよう。 せめて駅に戻ってやり直したい」
三郎次の言葉に左近も頷く。 さらりとした髪が頬のすぐ傍で揺れた。
幸い今日はあたたかいから、気分が落ち込まずにすむと、左近は無理矢理顔を上げる。 すると、角を折れて、人がやってきた。 きっと、地元の小学生だ、と思う。 今日は休日だから、ランドセルこそ背負ってない物の、お互い話しに興じながら歩く様は確かに地元民だと思えた。
「あの、道を教えて下さい」
三郎次が、たた、と二人に近づき声を掛けると、相手はいささか驚いたように目を見開く。
「この、住所か、駅に行きたいんですけど」
三郎次は構わずに持っている地図を広げて見せた。 赤茶けた髪の男子が、気を立て直して地図を見る。
「あー、大丈夫。 そんな離れてねえや。 家の方に連れてってやるよ。 いいよな、数馬」
彼が、隣にいる、くるくるとした髪をハーフアップにした女子に目をやれば、うん、と頷いた。
「うん。 少しくらい戻るの遅れても心配しないと思う。 行こう」
そんな、何でもないやりとりに、どこか気恥ずかしくなって、左近と三郎次は目を見合わせた。
今日は、あたたかい。 だからだ。 こんなに陽だまりがまぶしいのは。
前を歩いてくれる、『作兵衛』と『数馬』について行く。 地図を見ないで歩くのに、少し呆れていると『数馬』もそうだったらしく、作兵衛、と顔をそちらへ向けたから横顔が見えた。 くるりと丸い目に、どこか既視感を覚えた左近は目をパチパチとしばたく。
「大丈夫なの? 地図、見ていないけど」
「すぐだからな。 とと、この辺りだな」
そこで手の中の地図を見た『作兵衛』は、あの青い屋根の家だ、とこちらを振り返った。
「あ、ありがとうございます!!」
頭を下げたというのに、相手はまた驚いたようだった。 目を丸くして、二人は視線を交わすと、どちらからともなく笑みをこぼす。 それを見て、どこか嬉しい気持ちになったのは何故だろうか。 左近も三郎次も、首を傾げたが、答えは掴めそうもなかった。
じゃあ帰り道気をつけてね、と言って、来た道を戻る二人は、果たして気付いているのだろうかと、左近はぼんやりと二人の背中を見送る。
「男子の携帯のストラップと、女子の鞄についてたマスコット、全然印象違うけど、同じ絵本のキャラなんだよね・・・・・・」
呟いた声は、三郎次の押したインターホンの高い音に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。
相も変わらず、日差しは眩しく、開いたドアの向こうの玄関先にも陽だまりが踊っている。


素材: NOION

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