キスと恋文の日〜!
短いので、つながりのない二つの文を同じページにつめちゃいました。
恋文:富→数/めぐってにげる:富数両想い
<恋文>
「さっきから、なに深刻そうな顔してるの?」
廊下で偶然会った数馬が首を傾げて問うものだから、作兵衛はどきりと後退る。
それが面白くなかった数馬は、一歩作兵衛へと歩を進めて、もう一度なんでと問うた。
横でおかしそうに笑う声がするのでそちらを見やれば、左門が立っているのに数馬も作兵衛も少し驚く。
「今ろ組ではな、ほとんどの者が頭を抱えているぞ!」
「…左門は抱えてないね?」
数馬の疑問に、左門は胸を張って答える。
「僕はあれこれ悩まないからな。 数馬、作兵衛は恋文の書き方で悩んでいるんだ。」
「ちが、これは授業でだ!」
誤解されてたまるかと作兵衛が叫んだけれど、当の数馬は、別にそんな必死で言わなくてもと笑った。
じたばたしてるのが自分だけで、作兵衛は少し悔しくなって、勝手な感情とわかっていながらため息をついて、肩を落とす。
「ろ組は、恋文を書く宿題なんて出てるの。」
「っ、そーだよ! 忍者として、相手の心をいかにうまく掴むか考えろってさ、」
「絶対酒の肴にされるだけだから、真面目に悩むだけ損だぞ作兵衛。」
おかしそうに左門が笑うと、作兵衛はその頭をひっ叩いた。 いたい、と声が上がる。
「それよりてめえは会計室にいるはずだろうがよ!」
「むっ、そうだった。 墨を取りに来たんだ!」
言うが早いか、左門は会計室とは逆の方向に走り出す。 それでも時間さえあれば辿り着くようになったのだから、ここでの3年間は無駄ではないらしい。
学園の隅から隅まで走り回る左門の体力は一体どこから来るのだろうと乾いた笑いがでそうになる。
「それで、悩んでるの。」
くすくすと数馬が笑うので、作兵衛は気まずげに目を逸らした。
「なんかこう、なに書けばいいのか皆目検討もつかねえ。」
「うーん、好きな子に宛てる気持ちで書けばいいんじゃない? 先生だって気づかないだろ、相手の事は。」
事も無げに言われた言葉に作兵衛はまた溜息をつく思いになる。
「…書けねえよ。 余計書けねえ。」
言って、しまったこれじゃ好きな奴がいるって白状したもんじゃねえかと思うけれど、どうせ数馬は気にしない。 開き直って作兵衛が顔をあげれば、やはり、数馬の目は穏やかに笑んでいる。
痛む胸に奥歯もキリリと痛んで、苦しい。
「…いいよ、左門の言う通り、どうせ笑われるなら、適当に書くさ。 数馬?」
ふと、考え込むような表情を見せた数馬に今度は作兵衛が首をかしげる。
「いや、作兵衛も真面目だねって思ってさ。」
「そりゃ、まがりなりにも宿題だからな。」
でももう諦めた、と作兵衛は言って笑う。
仮にでも数馬に宛てて書いたりしたら、それこそ書き終わるものか。
好かれたいじゃないか。 否という返事などほしくはない。 だからきっと、いつまでも文字にはできないし、できたとしても渡せないだろう。 本物は。
作兵衛は情けなく思う気持ちを隠して、数馬と別れて長屋へ戻る。
まだ白紙の紙にただ一言、お前が好きだと書いて提出した。
…笑わば笑え
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<めぐってにげる>
「寝てやがら。」
資材を取ってきて、長屋に戻ってみれば、自分に用があったのか、数馬が部屋にいた。
疲れているのか、よく寝ている。
数馬、と声をかけようとして、どきりとする。
薄く開かれた唇に目がいってしまって今日はちゅーの日だぞ、と、迷子達が言っていたのが脳裏によみがえる。
だから、今日くらいがんばれ、と冷やかされた。
「…、っとに、好き勝手言いやがってあいつらは。」
できるかよ、と、数馬の顔に張り付いた髪を避けてやる。
寝ている数馬は、あの印象的な丸い目が隠されて随分と常とは違って見える。
連日の授業で焼けた肌はそれでも自分よりかは幾分白い。
すうすうと寝息をたてる数馬に、作兵衛は溜め息をつく。
そうすると、忍び笑いが聞こえてきて、作兵衛は目を見開いた。
「ふふっ、作兵衛、寝てると思った?」
「なっ、おまっ、」
数馬は横になったままおかしそうに笑う。
「作兵衛が髪に触れたときに起きちゃったよ。 ねえ、今日何の日か知ってる?」
まだ眠いのか、ふにゃふにゃした口調の数馬に、作兵衛はまたどきりとする。
迷子の言葉が思い出されて、これはチャンスなのかと、目まぐるしく考えていると、数馬がまた口を開いた。
「今日はね、恋文の日なんだよ。」
ふふ、と笑う数馬に、作兵衛は力なく肩を落とした。
チャンスは、やはり、頑張らなければ巡ってこないようだ。
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