ざあざあと、雨が降るのを恨めしげに見上げる。
早く、学園に帰りたいのになあ。
そう思うと、更に雨脚が強くなり、視界が白くけぶるほどだ。
「これも不運のなせる技?」
早く帰りたいのになあ、と今度は呟いた。
山に来て採薬をして、少し体術の練習をしていた。 そこまではきれいに晴れていたのに。
ぽつり、と雨を感じた次の瞬間、土砂降りになってしまった。
近くの洞穴に逃げ込んで、半時ほど。 雨は更に酷くなっていく。
「これは、へたすると野宿かな・・・」
ああ、みんな心配するなあ。
濡れた髪と服がずっしりと重い。
お腹も空いてきて悲しい気持ち。
気を紛らわせようと、みんなの事を考える。
藤内は何してるかな、一年生のケンカを止めたり、綾部先輩や立花先輩に振り回されてるのかな。
三之助は案外この雨の中走らされているのかも。
風邪ひいたり、ケガしてなきゃいいけど。
左門は会計室だろうな。 湿気を含んだ紙に必死で数字を書き付けている様が目に浮かぶ。
孫兵はきっと飼育小屋。
少しでも雨が吹き込まないようにと、竹谷先輩と頑張ってるんだろうな。
作兵衛は
作兵衛は、用具委員の仕事してないといいんだけど。 修補に夢中になって、雨の中でも構わず続けるんだから。
「・・・会いたいなぁ。」
「誰に?」
え、
驚いて顔を上げる。
ここには僕一人で来ているから、誰もいないのに。
「作兵衛っ?」
ずぶ濡れで、ぼくの横に倒れ込む。
「はー、しんどっ すっげえ雨だぞこれ」
「作兵衛、なんで、」
「お前、帰ってこねえから。」
さらりと言う作兵衛に段々腹が立ってくる。
この雨の中、山道を? 無謀にも程がある!!
「何考えてるのさ! こんな中、足滑らせて崖にでも落ちたらどうするんだ!
誰も助けにいけないし、雨で体力も奪われる!」
「・・・おれもそう思ったからだよ。」
横になったまま、僕に手を伸ばして、数馬、とぼくの名前を呼ぶ。
「作兵衛はバカだ」
手を掴んでそう言ってやると、ひでえ、と返ってくる。
「なあ、誰に会いてえんだ? 数馬。」
「決まってるだろ、みんなにだよ。」
「・・・・・・ふうん。」
見る間に不機嫌になる作兵衛の頭を撫でる。
「この辺はさ、よく採薬に来るから雨が降った時の避難場所も決めてるんだ。
だから心配いらないんだよ。
次は、絶対来ないでね。」
「・・・・・・。」
ああ、拗ねてる。
でもここで、来てくれてありがとう、なんて言おうものなら、また同じ事をする。
それだけは嫌だから。
「約束して」
「嫌だ。」
ぼくもむっとする。
「わからずや!」
「そっちもだろ!」
しばらく睨み合う。
先に、折れたのは作兵衛だった。
空いている方の手で目を覆う。
「・・・怖かったんだ。 こんな雨で、もし落とし穴にでもはまってたら?
考えたら止まらなくて、・・・気付いたら走ってた。」
それを聞いて、ぼくは溜息をついて、もう一度作兵衛の頭を撫でた。
「うん、・・・気持ちはすごく嬉しいな。 でも、それでも約束して? ぼくも約束する。 作兵衛のいない所で、危険な目に遭わないよ。」
「なんだよそれ、保証なんかねえだろ。」
「必ず、作兵衛の元に帰るからさ、信じてよ。」
「・・・・・・。」
作兵衛は何も言わず、ぼくもそれ以上は言わず、雨の降る音がただ、けたたましく響いていた。
自分の事を思ってくれているのがわかるから、返って辛い。
それは、作兵衛の方も同じだと思う。
だから頷いてくれないっていうのもわかる。
ああ、まったく。
恋とは面倒なもの。

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