ごうっと、風が吹き抜けた。
隣を歩いてた奴が、小さく悲鳴を上げる。
「なんだー? 砂でも目に入ったか?」
「ちがうよ、あーもう、さっきから風強くて髪ぐちゃぐちゃ!」
手櫛でなんとかしようとしている数馬の髪を見ると、癖の強い髪は確かに悲惨なほどこんがらがってしまっている。
「ちょっと、笑ってないでよ、作兵衛。」
むっとした表情でこちらを見てくる数馬の髪に手を伸ばす。
「だって、お前ほんとにすげえんだもんよ。 落ち葉んなか突っ込んだみてえになってんぞ。」
「うええっ? うそ!」
嘆く数馬の頭に手を伸ばして、一つ二つとってやる。
乾いた葉が手の中でかさりと音を立てた。
「もー、風が強いとこれだから・・・」
ぶつぶつ文句を言う数馬にどうしても笑みが隠せない。
くつくつ喉の奥で笑っているおれに、数馬が作ちゃん!と睨んできた。
「風もっと吹かねえかな。」
「ちょっと、それ嫌がらせ?」
「近いかも。」
それを聞くや、数馬がふいっと顔を背けた。
しまった機嫌損ねたか。
そこへまたひときわ強い風が吹き付ける。
更にぐちゃぐちゃになった頭を抱えて、数馬が半泣きの表情を作った。
「もー! 作兵衛のせいだからね!?」
「吹かねえかなって言っただけじゃん。」
「絶対、言霊発動したんだよ、も〜、」
理不尽な事を言って、また絡まりに絡まった髪と格闘している。
「なあな、おれ梳かしてやろうか。」
じとり、と数馬が半目でおれを睨む。
怖い。
怖いけど可愛い。
「もしかして、そのために、風吹かないかなって言った?」
頬に赤みが差したのを見つけて、ちょっと、いやかなり嬉しくなる。
けれどここで認めてしまうのは気恥ずかしい。
答えないおれに、数馬は一つ溜息をついて、すたすたとおれの前を歩き出した。
「数馬?」
あれ、頬が赤かったのは怒ったからか?
やべえ、と焦る。
数馬が怒ると、しばらくは取り合ってもらえない。
「・・・うんって、言ったら、髪梳かせてあげる。」
背中でそう言われて、今度はおれが真っ赤になる。
恥ずかしい。 全力で恥ずかしい。
「どうなの?」
くるりと数馬が振り向いてこちらを見る。
その目がまん丸に見開かれて、それからくすりと笑われた。
「ふふっ 作兵衛は顔に正直にでちゃうね・・・っ しょうがないなあ、それで許して上げるよ。」
いこう、とおれに手を伸ばすから、その手をゆるゆると掴む。
ああ、くそ、普通に言えばよかった!
風は尚も吹いている。



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