涙
「ふあー、やっと学園に帰ってこれましたねー」
隣の伊作せんぱいを見上げて言うと、ぼくよりもよれよれの姿で、それでもにっこりと笑ってくれた。
「まさか昨日のうちに帰れないとは思いもしなかったね。 僕でもあそこまでの不運なかなかないよ。」
ですよねえ、と頷いた。
委員会で必要なものを買いに、昨日の朝、町に出た。
雨が降り、足を滑らす。
そこまではいつもの事、だ。
その先に、同じく足を滑らせたおじさん。
腰をゆわしたとかで家まで送っていく事に。
しかしそのおじさんは、いわゆる山賊で、まあ一悶着あったわけだ。
一、二年生が一緒でなくてよかった。
伊作先輩が僕以上によれよれなのは、僕をかばってくれていたから。
いつもいつも、どこか頼りなく思える先輩はそれでもさすが六年生だった。
「先輩、ぼく涙がにじんできました。」
「ねえ、無事に帰ってこれてよかったよー。」
あははとのんびり先輩が笑う。
ああ、自分も、それくらい強くなりたい。
「数馬っ」
門をくぐった所で、どんっと体当たりを食らう。
踏ん張りがきかずそのまま後ろに倒れて、塀に頭をぶつけた。
ごんっと音がして目に火花が散る。
「もう、作兵衛、危ないじゃないか!!」
文句を言うぼくの顔をまじまじと見て、数馬、と呼んでくる。
その目に水の膜が張っている。
それを見ると、ぼくの目にも涙が浮かんでくる。
作兵衛がぼくを心配して、夜通しここで待っていてくれた事は明白だった。
作兵衛の体温がひどくぼくを安心させてくれる。
学園に帰ってくるまで、本当は怖かった、と言う事に今気付いた。
「数馬よく頑張ったね、」
伊作せんぱいは柔らかく微笑んで、頭を撫でてくれた。
とうとう、ほろりと涙がこぼれてしまう。
作兵衛の腕の中で泣くのは、恥ずかしくて情けなくて、それでも不思議と心地よかった。
伊作先輩の優しい労いと、作兵衛の体温が、なんて心強い。
ほろほろと止まらない涙と共に、安心しきったせいかぼくはそのまま眠ってしまった。
数時間後に医務室で目を覚ましたぼくに、今度はおれが背負うからな、と作兵衛が仏頂面で言ったのが面白かった。
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