明日、午後の授業がないときかされて、俺たち三年はいきなり空いた時間をどうやって過ごすか、考える羽目になった。
金木犀の香る季節の事である。


「作兵衛!」
呼ばれて振り返る。
声で誰かはわかるけれど、振り返った先に思い描いていた人物が立っているとほっとする。
数馬はなんだか、見ていると安心する空気をもっている。
「数馬、は組も授業終わったのか?」
「うん、これから委員会。」
「おれもだ」
お互い、委員会の仕事は嫌いではない。
まあ、苦労していないわけではないけれど。
「明日、午後休みだって聞いた?」
ふわりと笑う数馬に胸が騒ぐ。
普段、困ったように眉尻を下げがちな彼がこうして笑むのは、安心しきっている時だと思う。
だから、自分の前で嬉しそうに笑ってくれると、心底嬉しい。
「数馬は勉強好きじゃないよな。」
「別に嫌いじゃないよっ」
慌てて否定する様がおかしい。
くくくと笑っていると、もー、と文句を言っていた数馬も笑いを漏らした。
明日の休み、やっぱり藤内と過ごすんだろうか。
そう思うと、何かが胸を刺す。
「?」
変だ。
そう思ったけれど、答えはわからない。
最近、数馬が誰かといるのを見ると、ざわりと自分の内で何かが騒ぐ。
「あのさっ」
気付いたら声を出していた。
数馬が柔らかにこちらを見る。
なあに? と目がいっている。
甘やかで、それでいて凛とした金木犀の香りが鼻をくすぐる。
「明日、お前が行きたいっつってた団子屋行かねえ?」
「わ、行きたい! え、作兵衛一緒に行ってくれるの?」
「おう。」
嬉しい、と数馬が笑う。
団子一つでここまで喜ぶなんて、さすが食いしん坊の数馬、とおれも笑う。
「みんなは用事あるかな」
にこにこと続ける数馬に、とたんに楽しい気持ちが消え失せた。
みんな
二人で行くという考えは数馬にはないのだろうか。
そう思って、自分で驚く。
自分は、数馬と二人で出かけてみたいのだ。
これは、新しい発見だった。
「えと、さ、6人で行ったら、店の邪魔にならねえ? 小さいとこだって聞いたぞ。あの店。」
「え、そうなの?」
「だからさ、二人で行かねえ?」
ああ、くそ、なんでこんなに言いづらいんだ。 店の事はしんべヱに聞いていたから嘘ではない。
すごくおいしいですけど、小さなお店なんですー、としんべヱはほっぺたをふにふにさせていた。
「それにおれ、数馬と出かけた事ってねえし、」
なんて言えば、説得できるだろう、必死で言い訳めいた言葉を探す。
「だから、」
知らずうつむいていた顔を、数馬が覗き込んできた。
ふわりと香るのは、花のにおいなんかじゃなく、薬草を煎じたあのにおい。
「うん、二人で行こう」
今日一番の笑顔で数馬がおれを見る。
ちかちかと、光が世界を埋め尽くしていくような気が、した。


2011.10.12


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