「あれ、作兵衛、六年長屋に用?」
「数馬こそ」
おれの背中から声をかけて、隣に並んで歩き出す数馬を見る。
「て事は、目的地は一緒だな。」
「うん、ぼくは伊作先輩の所。 作兵衛は食満先輩?」
「おう こうして2人で向かうのは久しぶりだな。」
「そういえば、そうだね」
そこまで話して、ふと思い出す事があった。
「ははっ 思い出しちまった。 この前なうちの一年ボーズどもが食満先輩の部屋に行ったんだと。 夜に。」
「・・・あー、うん、わかった。」
「ははは、あれはびっくりするよなあ、」
「ね、魂でちゃうよねー。」
2人でひとしきり笑う。
食満先輩と同室の伊作先輩の私物、コーちゃん忍服着用、慣れていないと本当に怖い。
「一年の時の事も思い出しちゃった。」
「おれも」
顔を見合わせた後、2人で爆笑する。
「あの時も2人で行ったよねっ」
「そうそう殆ど初対面だったよな−、でも暗い廊下が怖くてよ。」
「ふふ、手繋いでったよね。」
そしてたどり着いた部屋の戸を開けて一番最初に目に入ったものは例のコーちゃんで。
悲鳴を上げて、二人して魂が抜けちまった。
慌てて食満先輩と伊作先輩が回収してくださったらしい。
あの後しばらくは本気で四年長屋に近づけなかったし、伊作先輩の事も怖くて、医務室に行けなかった。
怪我しても来ない! と怒られたけど。
「数馬はあの後すぐ慣れたよな。」
「そりゃあ、ぼくは、作兵衛よりも目にする機会多かったしね。 慣れざるを得ないよ〜」
あの後も平気で、伊作先輩の部屋へ向かう数馬を見て、内心感心したっけ。
「案外強い奴だなって、思ったんだ、あん時。」
「え、」
びっくりした顔の数馬を見て、しまった、と思う。
まあ、もう時効か。
本当は平気そうな数馬を見て、怖がってる自分がひどく情けなく思えたから、絶対数馬にこのことは言うまいと思っていたんだった。
2年も前の事だからすっかり忘れてたけど。
数馬は驚きの目のまま、口を開く。
「じゃあ、ぼくも言っちゃおうかな。
あの時、作兵衛ぼくの手握ってくれたでしょ?」
「え、あれ、おれからだっけか? 覚えてねえや。」
「うん、とにかく、いつも通らない廊下・・・しかも夜中で、怖くて怖くて。
でも一緒に歩いてるのは殆ど初対面の子で、くっつきたくても、できなくて。
だからね、手を握ってくれてすごく嬉しかったんだ。」
まあ、これから忍者になろうって入学したのに情けなくって、絶対作兵衛には言わないって決めてたんだけど、と数馬が困ったように笑う。
「なんでえ、お互い様じゃねえか。」
「ね。」
そして、部屋にたどり着く。
声をかけて了承をもらい、戸を開く。
そこにはやはり、忍装束を着たコーちゃんがおれらを出迎えるようにこちらを向いていた。
顔を見合わせて笑うおれらに、両先輩方は不思議そうにいらっしゃい、と言ってくれた。






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