「え、保健委員と鍛錬っすか?」
3つ下の後輩の間の抜けた顔に留三郎は一つ笑った。
「不満そうだな。」
だって、と作兵衛は口をとがらせる。
「保健委員なんて、力仕事なんてない、ひょろいやつらばかりじゃないですか。」
「・・・そう思うなら、お前もまだまだだな。」
留三郎の言い方に、作兵衛は少しむっとする。
何がまだまだだというのか。
湿気で、空気がむわっと暑い。 じっとりと汗ばむ体が気持ち悪い。
作兵衛はじっと留三郎の言葉を待つ。
紡がれた言葉は、作兵衛にとっては冗談だと思えるものだった。
「保健委員は強えぞ。」


同じ学年の保健委員は、は組の三反田数馬だった。
数馬は、す、と構えをとる。
どう見たって隙だらけで、作兵衛は先程の留三郎の言葉をやはり冗談だったと決めた。
あっさりと勝ってしまったのだ。
数馬は呆然と空を見上げていた。
作兵衛は自分がひっくり返したのだから、当然とばかりに手を差しだした。
数馬を立ち上がらせるために。
けれどその手は振り払われ、睨まれる。
数馬はその日、一度も作兵衛とは口を利かずに、伊作と留三郎の手合わせをじっと見ていた。



「食満先輩、おれって、まだまだだったんすね。」
「は、なんだ、作兵衛突然。」
とんてんかん、と金槌を歌わせながらの後輩の言葉に留三郎は首を傾げた。
「おれが、1年の時、初めて保健委員と手合わせするってとき、おれ、食満先輩の言葉冗談だって思ったんです。」
ああ、と留三郎は頷き、楽しげに笑う。 それでも釘はまっすぐに打ち付けられる。 作兵衛の何倍ものスピードで、修繕は進んでいた。
「お前はあっさり三反田をひっくり返したっけな。」
「でも、次の手合わせでは、ひっくり返されました。」
作兵衛は手元から目を離さずに、また次の釘を打ち付ける。 丁寧に、曲がらないように。
「おれ、あれ結構ショックで。」
「保健は強いだろう。」
作兵衛は頷こうとして、やめた。
そよりと吹く風が汗ばむ体に気持ちいい。 この修繕が終わったら、また、保健との手合わせがある。
逸る気持ちを抑えて、丁寧に、曲がらないように。
「数馬が、強いんです。」
作兵衛の、まっすぐな声に留三郎は虚を付かれた。 けれど、相変わらず釘はまっすぐに打ち込まれる。
「さて、今日はどっちが勝つだろうな。」
当然、おれです、と作兵衛は答えて、また一つ釘を持ち打ち付ける。
あと少し、あと少しで修繕は終わる。
久しぶりの青空が目に眩しく、知らず、気持ちは弾むようだった。


おわり

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