孫兵は振り返って、今出てきた家を改めてまじまじと見た。いわゆる別荘というやつで、伊賀崎家はそれを有していた。
幼い頃幾度か遊びに来た気はする、といったその程度の思い入れしかない。だというのに、春からここで生活することになったのだ。元はと言えばいつも何かと行動を共にすることが多かった、孫兵を含む六人が同じ大学、もしくは近くの大学に入学すると知った孫兵の母が、だったら近くに家があるから一緒に暮らしなさいな、と思いつきで言ったのが原因だ。
 実家から離れてはいたから、みんな学校の寮なり、アパートなりを借りる心づもりでいたけれど、こうなってくると、家賃も手続きにかかるお金も必要なくなる。そこで、全員がこの話に飛びついた。
 ただ、食事について、いくつか母は条件を出した。
ひとつ、一品は手作りをすること。
ひとつ、夕飯係は当番制にすること。
ひとつ、夕飯は必ずみんな揃って食べること。
 本当に面倒な条件だと孫兵は思った。これがなければ、もっと自由に・・・部屋にこもって研究内容を纏めている時に、夕飯だから降りてこい、と声を掛けられることもないのに。

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「お味噌汁もないの?」
「え、お茶があればよくない?」
孫兵は心底そう思っているようだった。今度は藤内から悲痛な声が飛ぶ。
「よくないよー! 日本人だよ、俺たち!!」
「ご飯は炊いたろ。ほら、冷めるよ、いただきます。」

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左門は、門を潜り、そういえば今日は火曜日だったな、と思う。 カレーの匂いが、したのだ。
ただいま、といえば、お帰り、とバラバラと声が飛んでくる。 今日は左門が最後だった。
夢中でレポートを書いていたら、いつの間にやら月も星も輝いていた。 もう晩秋だ。 夜になるのが早い。

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「うう」
 疲れた表情でこちらに寄ってくる藤内に苦笑して、何作るの、と数馬は聞いた。
「……これ」
「うわ、ややこしいな」
 藤内が見せたスマートフォンの画面にはレシピサイトがうつっている。それを確認して数馬は眉を寄せた。おしゃれで手の込んだ料理。はっきり言ってしまえば、大学生が講義を終わらせて、買い物をしてから作るものではない。




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