世は浮き立つ聖戦の季節。

「なあ、数馬、何でさっきから煎餅のコーナーうろうろしてるんだ?」
思いがけず声をかけられて、数馬は悲鳴をあげそうになった。
それをすんでの所でなんとかこらえて後ろを振り返ると、藤内が不思議そうに立っている。
「っ、びっくりしたあ。 藤内ってばいきなり声かけないでよ。」
「すごい集中してたね。」
くくくと、藤内は笑って、買い物できたんだけど、数馬がいたから、と答える。
「そんなに悩んでるってことは誰かにあげたりするの?」
「、うー、…さ、作兵衛って甘いの苦手じゃない?」
「ああ、そういえば。 室町では甘党って言ってもいいくらいだったのにな。」
団子も饅頭もよく食べてた記憶がある。
それこそ取り合ってまで。
それがどうしたのと言いかけて、藤内は思い当たった。
「あっ、バレンタインかっ」
言い当てられた数馬の顔がぱっと朱に染まる。 可愛いなあと思うが、同時に、あれ?と藤内は首をかしげた。
「今年は手作りしないの? 俺、毎年楽しみにしてるんだけど」
「するよ。 みんなは甘いの平気でしょ? でも作兵衛は苦手だって言うからどうしようかなって。」
藤内は恥ずかしげに言う数馬を見て、呆気にとられる。
と、いう事は、作兵衛だけが、手作りチョコをもらえないということか。 そこまで思い当たった藤内は思わず叫んだ。
「数馬は、バレンタインの男子の心境がまるでわかってない!!」
「え、ええ!?」
驚く数馬に、藤内は尚も言い募る。
「みんなが手作りのチョコ貰ってる中、自分一人だけ市販の煎餅って、それなんの拷問だよ! あんまりだ…、さすがに、作兵衛がかわいそうだ…。」
「で、でも、甘いの苦手だったら、あげても迷惑に…」
戸惑いながら言う数馬を、藤内はきっと睨みつける。
「ならない! 甘いの苦手だってなんだって、バレンタインに欲しいものはチョコレート!」
「…、そ、なの?」
まだ不安げな数馬の顔を見て、藤内は苦笑する。
全く、迷走してるなあ。
「俺の言うことを信じなさい! まあ、作兵衛に嫌がらせがしたいんなら効果的だけど。」
「…チョコレート、用意します…。」
「よろしい。」
重々しく頷いた藤内に、数馬は少し笑った。


「作兵衛は俺を崇めても良いレベル。」
「はあ? なんだよ急に。」
いつものように、放課後公園で集まっている。
藤内がおもむろに放った言葉の意味がわからずに目を丸くした作兵衛は、答えが得られないとわかると数馬を見た。
バレンタイン前なのだ。 どうしても気持ちがそわそわとする。
誰にあげるんだろう。 …本命はいないよな、おれは貰えるんだろうか。
そんなことをぐるぐると考えていると、三之助が数馬、と呼んだ。
「藤内だけに渡すのはやめてくれよ。」
「さあ、どうでしょう」
ふふふ、と含み笑いをする数馬に気もそぞろになる。 ああ全く藤内が羨ましいと胸の内で呻いていると、左門がなあなあと、彼にしては小さな声で話しかけてきた。
「もらえるか不安なら、作兵衛から渡したらどうだ?」
「…はっ!?」
「作兵衛の場合、なにか作ってた方が気も紛れると思うしな!」
にかっと笑う左門の声は、幸いなことに数馬達には聞こえなかったようで、作兵衛はほっと息をつく。
「そんな、気にしてねえし。」
数馬に向けた視線を、左門に戻して言えば、まあいいけどな、と返ってくる。
その顔はにやにやしていて、隣を見れば、藤内も含みのある笑顔を見せている。 まったく居心地が悪い。
作兵衛は知らぬ振りを決め込んで、作るなら何が良いかなと考え始めた。



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