「数馬!」
桜の下でたたずむ三つ編みの女の子に向かって、藤内は声をかける。
藤内がこの街に越してきて2年目、すっかり二人の仲は公認になってしまっているから、名前を呼び捨て合ってももう誰も何も言わない。
ある生徒は、「二人は付き合ってる」と思い、ある生徒は「兄弟以外の何者でもないよね」と思っている。
実際二人は付き合っていないので、後者が事実に近い。
それほどまでに二人は親密だった。
「藤内、やだな、大声で呼ばないでよ。」
少なからず、周りの視線がこちらに向いたのを感じて、数馬がほんのり頬を染めて抗議する。
量の多い癖のある、ふわふわとまとまらない髪を本人は気にしているが、それは彼女を愛らしく見せる要素でしかない。
藤内は、ごめんと謝りながらも微笑む。
本当に、女の子なんだもんなあ。
室町の頃とは違う意味で、守りたいと思う。
一人そう決意して、数馬の横に並ぶ。
「この町の桜は、見事だね。」
「うん、学園の桜を思い出すよね。」
桜に目を移した藤内にあわせて、数馬も視線を桜に戻した。
「いつか、また6人そろうといいなあ。」
ふわりと笑う数馬に藤内はちくりと痛む胸を無視して、そうだねと答える。
数馬は忘れてしまったのだろうか。
あの学園を卒業してからのことを。
作兵衛への想いを。
聞く勇気はなくて、藤内は曖昧に笑んだ。
ふわりふわり降る桜は、本当にどこまでもどこまでもきれいで、いつかのあの日を思い出させる。
「そうだ、数馬。」
「なあに?」
こほん、と咳払いを一つして、藤内は右手を差し出す。
「今年も、よろしくね。」
一瞬きょとんとしてから、数馬はふふ、と笑ってその右手をぎゅっと握る。
「うん、またよろしくね。」
今日から6年生。
校庭の片隅で、二人はよく似た笑顔で握手を交わした。
「ねえ数馬、帰ってから甘い物食べに行かない? 進級祝いで。」
「行く!! あんみつやさん行こうよ、あんみつ〜」
「またあ? 俺たまにはケーキ食べたい。」
「むう、じゃあ、この次はあんみつだよ。」
藤内は頷いて、ランドセルをよいしょと背負い直す。
「じゃあ、後で迎えに行くね」
「うん、待ってる。」
ばいばいと二人は手を振って違う道を歩く。
数馬の家の近くには小さなお店がいくつかある。
幼い頃からのなじみの店なので、こどものお小遣いでも買える値段で飲食させてもらえる。
ついでに言うと、数馬がまだ藤内に会う前、彼の名前を口にしていたのを知っている人たちでもあるので、おもしろがっている、と言うのもあった。
例えおばあちゃんになっても、女の子は運命とか、ロマンチックとかが好きなのだろう。
小学校から20分歩いた所に、数馬の家はある。
藤内の家は、反対方向に歩いて10分。
「ただいまー」
鍵を開けて、声をかける。
誰もいないことがわかっていても、習慣になっている。
ここまで、自転車で来てくれる藤内のために、コップを出す。
藤内用にと、去年買った物だ。
一生懸命選んだ甲斐あって、すごくすごく喜んでくれた。
数馬は時計を見る。
あ、くる。
がちゃり、とドアが開いた。
「お邪魔します。」
「いらっしゃい」
言って、麦茶を渡す。
青い、いつものグラスを見て、藤内は嬉しそうに笑った。
next