藤内がドアを開くとからんからん、と可愛い音がした。
「おや、いらっしゃい。」
「こんにちは、今日はどうしたんだい?」
進級祝いなの、と数馬が可愛らしく微笑んだ。
中でケーキを作っている熊のような風貌の職人さんが、にこにこと綺麗に飾り付けされたケーキをさしだしてくれる。
「俺からのお祝い。 新作だよ二人で食べな。」
ぱあっと子供たちの顔が明るくなるのを店の大人たちは微笑ましく見た。


「ごちそうさまでした〜!!」
「おいしかったです!」
挨拶して、笑顔満面に店を出てきた二人は、満足そうに顔を見合わせた。
「「・・・おっいしかったー!!!」」
「ちゃんとお金払うつもりだったのに、おごってもらっちゃったね。」
「数馬が、正直に進級祝いにって言うから。」
ふふ、と笑いあう。
申し訳ない気持ちと、とても嬉しい気持ちが綯い交ぜになる。
4月になって、日が伸びてきているけれどそれでも4時には綺麗な夕焼けが見える。
数馬と藤内は、入学式は半日で終わるから遊びたいね、なんて話しながら数馬の家に向かった。
藤内は自転車を数馬の家に置かせてもらっている。
笑ったり、ふざけたりしながら二人で歩いていたら、ごうっと強い風が吹いた。
大きな桜の木から、花びらが降る、降る。
それに目を奪われた。
時、

「数馬ッ!!」

自分を呼ぶ声が聞こえて振り返ろうとした数馬に、どんっと何かが勢いよくぶつかった。
かろうじて、踏みとどまる。
温かい。
何か、ではなく 誰か、だ。
「数馬、」
かずまかずまと、名前を呼ばれ続ける。
泣いているような気配がしたから、背中を優しくたたく。
「数馬」
ぎゅう、と抱きしめられているから、髪の毛しか見えない。
ぽんぽん、とあやすように背中をたたいていると、相手はどうにか泣き止んだようだった。
少しほっとする。
けれど離してもらえず、数馬はどうしよう、と藤内の方を見たかったが、抱きしめられているのでそれもできない。
ただ、怖い感じはしなかった。
「数馬なのか!?」
また違う声が飛び込んでくる。
その声に、回されていた腕がそっとほどかれた。
ゆるゆると、お互い顔を上げる。
そこにいたのは、
作兵衛だった。



「全く、公衆の面前で女の子に抱きつくなんて、度胸あるね作兵衛。」
藤内が、沈黙を破るように口を開く。
「藤内!! やった! これで全員そろったな!」
「・・・左門?」
「おう! 数馬は女子なんだな! 他はみんな男だぞ!」
さらさらの髪を揺らしてにっと笑うのは紛れもなく左門だ。
その後ろから、もう2人がやってきた。
「作兵衛、速かったな〜 あんだけ速かったら左門のこともっと早くつかまえられそう」
「それだけ、今必死だったって事だろう」
「三之助、孫兵・・・。」
こうなったらって、願っていた。
それがいきなり叶って、数馬の目に涙が浮かぶ。
よく見れば、藤内も涙ぐんでいた。
6人、そろった。
しかもみんな、記憶があるなんて。
嬉しくて嬉しくてどうしようもない。
桜は6人の再会を祝福するかのように惜しみなくその花びらを降らせた。
「・・・女子?」
作兵衛がぽつりと呟く。
「数馬はどこから見ても可愛い女の子じゃないか。」
孫兵の言葉に、数馬がぼっと赤くなる。
その様子を見て、作兵衛は呆然と数馬を見た。
見る間に作兵衛の顔が赤く染まる。
「すすすすま・・・! おおおれ、だき・・・!?」
「やわらかかった?」
「なんってこと言うんだお前ぇぇぇ!!!」
三之助の軽口に作兵衛が更に赤くなる。
数馬は、同じ年頃の子にしては肉付きがよい。
その事に気付いて、作兵衛はこれ以上ないほどに赤くなってしまった。
「さ、作兵衛、落ち着いて。 ぼくは大丈夫だから、ね?」
数馬が三之助の首をぎりぎりと絞める作兵衛に近づいて言う。
すると作兵衛は、ぱっと三之助の襟首から手を離して、数馬から少し距離を置いた。
「・・・、」
真っ赤な顔のまま、作兵衛はそれでも数馬から視線をそらせず、言いたい言葉を必死で音にしようとする。
けれど、それはうまくいかなかった。
ただ、数馬の手を取るので精一杯で。
「作兵衛?」
数馬は困惑して、作兵衛を見て、それから他の仲間を見た。
藤内は苦笑している。
三之助が、咳き込みながら言った。
「オレら、二人のことすげえ、探してたんだ。」
「特に、作兵衛はほら、卒業してからなんだかんだで数馬に会えなかっただろ?
ずーっと、数馬に会いたいって、言ってたんだよ。」
「作兵衛、手を離しても数馬は消えないぞ!」
左門が笑って作兵衛に話しかける。
「わかんねえだろが。 今、目を離したら、数馬、またいなく・・・」
ぽかりと作兵衛の頭を藤内がたたいた。
「大丈夫だよ、数馬だって、お前らに会いたいってずっと言ってたんだから。
いいからその手を離せ。」
そのやりとりを聞いていた数馬が、ふわりと、笑った。
花がひらくような笑みだった。
思わずその場にいた5人が見とれる、あたたかな笑み。
「うん、ずっと会いたかった。 今日はもう遅いから、明日会おうよ。
話したいこといっぱいあるんだ。」

ようやく、作兵衛も納得したようだった。
それでも数馬の手を離す動作は、おそるおそるで。
また明日、と別れたあとも、数馬と藤内の背中が見えなくなるまで作兵衛は動く事ができなかった。


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