藤内と数馬、二人と別れた帰り道で、左門が興奮気味に口を開いた。
「すごいな、小学生のうちに全員そろった!」
「案外近くにいたよな、灯台もと暗しって奴だな〜」
三之助も嬉しそうに応じる。
「作兵衛もよく、記憶がないかもしれない相手に飛びついていったよね。」
ふふと孫兵が笑って一人後ろを歩く作兵衛を振り返った。
「・・・言うなよ、それを・・・。」
また火照りそうな頬を無視して、文句を言う。
しょうがないじゃないか、と作兵衛は心の内でひとりごちる。
数馬だ、と思ったらいてもたってもいられなかった。
あれほどに、後先考えずに突っ走る自分がいるなんて思わなかった。
「いいじゃない、そのおかげで会えたんだ。」
「でも、僕たちは全員男だったから数馬が女の子だなんて想像もしなかったな!」
「藤内は男だったよな。」
「は組もオレらみたいに、生まれた時からご近所さんかな。」
「僕みたいに転校生かもしれないよ。」
わいわいと話が盛り上がる。
作兵衛は、その中に入る気分にはなれなかった。
ただただ、数馬に会えた事が、信じられない。
信じたいけれど、夢だったと思えて仕方ない。
触れた暖かさも、日が落ちて、すっかり冷たくなった風にたちどころに消されてしまった。
「明日、あの桜の下で待ち合わせて、数馬の家にお邪魔するんだな!」
真面目くさって先程決めた約束を確認する左門はとことん嬉しそうで、作兵衛は羨ましく思った。
何度も何度も、あの日の学園のことを思い出してしまう。
自分の気持ちをはき違えた。
苦い気持ちがせり上がってくる。
作兵衛は、みんなと別れて家に着くと、すぐさま自室のベッドに倒れ込んだ。
明かりもつけずにいると、部屋はどんどん暗くなっていく。
とうとう真っ暗になった時、作兵衛は携帯を手にした。
ディスプレイのまぶしさに一瞬目を細めてから、電話帳を開く。
『う』
『浦風藤内』
今さっき登録した名前。 番号もアドレスもきっちり入っていた。
指が震えるのが情けない。
息を吸って、吐いて、吐ききって。
ようやく作兵衛は、ボタンを押す。
『さ』
『三反田数馬』
やはり藤内と同じように、番号もアドレスも登録されている。
何度も何度も確認して、ようやく作兵衛は長い息を吐いた。
もう一度会えたら、と何度思ったことだろう。
あの紫の髪が視界を横切った時、本当に何も考えられなかった。
抱きしめても、消えてしまいそうで、怖くて幾度も名前を呼んだ。
数馬は、自分を見ても平静だったというのに。
その事が、とても寂しく感じる。
嫌われているよりかは、遙かに遙かにいいけれど。
「もう、何とも思っちゃいねえのかな・・・・・・。」
じりじりと胸が焼け付く。
言いたいことがあった。
卒業して、会えなくなってようやく自分の真意がわかったのだ。
それをどうしても伝えなくてはいけない。
明日、同じ桜の木の下で。
また会えるんだ。
じわりじわりと、作兵衛の目の際が赤くなっていく。
それをごまかすように呟いた。
「でも、まさか、女子になってるなんてな・・・・・・。」
「ねえ、数馬?」
藤内は数馬の家について、自転車に鍵を入れながら話しかける。
「なあに?」
「数馬さ、いやに平静だったね。 もう、作兵衛のこと平気なの?」
藤内がどれほど迷って、この問いをしたのかがわかる。
それでも、そんな風に思わせないほどさりげなく聞いてくれた。
数馬はありがたく思いながら、藤内にあのね、と応える。
「ぼく、今、すごく嬉しいの。
卒業したあの日、会わないって決めて藤内にいっぱい迷惑かけたのに、それでもやっぱり、作兵衛が好きだった。」
「うん。」
「忘れられないから、余計会えなくなった。」
「うん。」
藤内は優しく聞いてくれる。
とても言いづらいことでも、穏やかに聞いてくれる。
数馬はこの友人に感謝しながら言葉を紡ぐ。
「今、生まれ変わって、こうして会えて・・・。
ぼく、もう一度、頑張ってもいいかなあ。」
「・・・また、泣く数馬を見るのは嫌だな。」
藤内がぽつりと言った。
ふふ、と数馬が笑う。
「そうだね、また泣くかも。 でもね、藤内。」
ふわりと数馬が笑う。
藤内はこの笑顔が好きだった。
柔らかで、それでいて強さを備えた、素朴な花。
「女の子は、強いんだよ。」
「振られたら、ちゃんと次の恋にいける?」
藤内の言葉に、数馬が苦笑する。
本当に室町ではご迷惑おかけしました。
そう言って、数馬はしっかりと頷いた。
「でもね、今度は振り向かせるよ! がんばる!」
「はいはい」
ガシャン、と、自転車のストッパーを外して、藤内はようやくにこりと笑った。
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