桜の下で、ひらりひらり舞う花びらを見ながら、藤内は昨日の数馬との会話を思い出していた。
(数馬、室町じゃなくて今の数馬を大切にしてあげてね)
(今の数馬の気持ちが一番なんだからね)
そういった藤内に、数馬はふわりと抱きついた。
ありがとう、と小さく聞こえてゆっくりとぬくもりが遠ざかる。
ただただ、幸せを祈る。

「とーなーい!!」
自分を呼ぶ声が聞こえて、藤内は顔を上げた。
近づいてくる人影が、ぶんぶんと手を振っている。
左門だ。
他にも孫兵、三之助、作兵衛がいる。
ほっと、藤内は息を吐いた。 よかった、昨日の事は夢じゃなかった。
アドレス交換した携帯を見ても、数馬と話しても、どこか現実味がなかった。
そのくらい唐突な再会ー・・・出会いだったと思う。
「・・・数馬は?」
張り詰めた様子で、作兵衛が口を開く。
3人も、こちらを見ていた。
ああ、こいつらも自分みたいに、昨日の事が信じられないのだと藤内は苦笑する。
「家で、クッキー焼いてるよ。」
安堵の溜息が場に満ちた。
作兵衛など、崩れ落ちるかと思うほどだ。
それを見て、藤内は片眉を上げる。
「なあ、数馬が来るまで、ここで待ってればいいのか?」
三之助が聞いてくるので、藤内はそちらを見て首を横に振った。
「いや、このまま数馬の家に行こう。 そこならゆっくり話ができるから。」



道すがら、話す事は沢山あった。
「藤内と数馬は、生まれた時から一緒か?」
「違うよ、ぼくが小4の時にここに越してきたんだ。 そしたら同じクラスに数馬がいて。」
驚いたけど嬉しかった、と顔を綻ばせると、孫兵が頷いた。
「ぼくも、越してきたんだ。 小2の時。」
孫兵は少し思い出し笑いをしたようだった。
「違うクラスなのに、左門が飛び込んできた時はびっくりしたよ。」
「僕もびっくりだったぞ。 転校生が入ったとは聞いていたが、それが孫兵だとは想いもしなかったからな!」
「それで、オレらに知らせようとして、また迷子になったんだよなおめーは。」
不機嫌な風を装って、作兵衛が左門の頭を乱暴になぜる。
「で? ろ組の連中は、ずっと一緒なわけ?」
「おー、生まれた時からお隣さんだ。」
三之助の言葉に、藤内は羨ましい、と呟いた。
それならば、この世の中に、自分だけがたった一人で生まれ変わったかもしれないと恐怖したことはないのだろうから。
数馬が同じ教室にいたことで、どれほど自分が救われたか、ろ組にはきっとわからないだろう。
「・・・っと、ここが、数馬の家だ。」
呼び鈴を一度鳴らして、返答もないのにドアノブをひねる。
その姿に一同は何か言いたげに、けれどその場では何も言えず、お邪魔しますと、藤内の後に続いた。


「いらっしゃい!」
エプロンを着けて、髪を後ろに一つで縛った数馬が、甘い香りと共にキッチンから出てきた。
おおー、と歓声が上がる。
「? 何? どうしたの?」
きょとんと、数馬が首をかしげる。
その仕草は覚えがある。
数馬はよく、太い眉を下げて首を傾げていたものだ。
けれど、決定的に違うのは、数馬が紛れもなく女子だという事。
「なあ、それ、全部数馬の手作りか?」
左門が問うと、数馬はうん、と頷いた。
その仕草を、作兵衛は目で追いかけてしまう。
心音がやたらうるさくて動揺する。
左門が焼きたてのクッキーを期待のまなざしでみつめて、数馬をつついた。
「食っていいのか?」
「手洗いうがいしたらね! ほらあっち!」
数馬は言って、皆を追い立てる。
作兵衛だけはその場から動けずに、ただ数馬を見ていた。
口を開こうとする、が、うまくできない。
心臓の振動が頭にまで届いているようだ。
「作兵衛? どうしたの?」
顔を覗き込む形で、数馬が問う。
心配そうに、眉尻を下げて。
その顔に申し訳ない気持ちになって、また自分に笑って欲しくて、気持ちはあふれるのに。
あ、とか う、とかいって、作兵衛が言葉を紡げずにいると、奥から藤内が声を出した。
「数馬ー、おれ飲み物買いに行ってくるー 作兵衛も付き合えー!」
はっと、作兵衛は 奥から出てきて玄関へと向かう藤内を見た。
すれ違いざま、意味ありげに視線をよこした藤内を。
「おう」
短く答えて、作兵衛は数馬の横をすりぬける。
「あ、ぼくが行くよ。 作兵衛は休んでて?」
エプロンを外しながら数馬が言うと、玄関先の藤内が苦笑する。
「数馬、みんな俺たちと話に来たんだから、二人で席外したら意味ないだろ?」
「あ、そうか うーん、じゃあ、お願い」
にこりと笑って、作兵衛を見る。
作兵衛は、喉元まで出かかった言葉を飲み下して、おう、と小さく返事をした。
がちゃ、ばたんと扉が閉まる。
作兵衛が、ぎこちない訳が思い当たるだけに、数馬はそっと溜息を漏らした。
自分が作兵衛にした仕打ちを、彼は怒っているのかもしれない。
そう思うと、ようやく出会えた嬉しさがなんだか寂しさに変わるようだった。
(勝手だ、ぼく・・・・・・。)
室町の、あの時、作兵衛にもう会わないと決めたのは紛れもなく自分だったのに、現代で出会えて何もなかったみたいに振る舞って。
むしのいい話だ・・・。
閉まったドアを見て数馬はしょんぼりと項垂れた。



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