朝九時に、地元駅で待ち合わせ。
数馬は動きやすくて、それでも出来るだけ可愛い服をクローゼットから精一杯選んだ。
短パンにレギンス、上は春らしい色のブラウス。
昨日の内に選んでおいてよかった、と数馬は嬉しげに笑む。
お昼をこさえていたので、朝に服を選ぶ余裕などないとふんだのが功を奏した。
6人分のお昼だから、結構な重さになってしまったけれど、遊園地のロッカーに預けてしまえばいいことだ。
幸い数馬は非力ではない。
今日は日曜日だから両親が家にいるので、数馬、と呼ばれる。
はあいと答えて階下へ降りると数馬の格好を見て、母親がどこかへ出かけるのと聞いた。
食卓につき、パンを口にして答える。
「うん、遊園地。」
「藤内君と?」
にやにやと聞いてくる母親に苦笑して、他にもいるよ、と言おうとした所で携帯のバイブが3回鳴った。
メールだ。
「誰だろ。」
数馬はぱくんと携帯を開けると、目を丸くする。 ディスプレイには富松作兵衛と記されていた。
急いで食べて身支度を調え始めた数馬は、どうしたのと声をかけられる。
数馬は焦ってしまって、眉尻を下げた。 見慣れた表情に数馬の母は呆れたように娘の言葉を待つ。
「む、迎えに来るって言うから・・・っ」
「慌てると、また思わぬ不運にはまるわよ、落ち着きなさいな。」
いつも藤内が迎えに来る時には平然としている数馬なので、不思議そうな顔の母になだめられた。
それでもあわあわと落ちつかなげに前髪をいじったり、着ている洋服を引っ張ったりしているので、とうとう数馬は誰が来るのと聞かれてしまった。 僅かながらその頬が色づく。
「作兵衛・・・」
「作兵衛、君?」
数馬が母親のますます不思議そうな顔を見たその時、インターホンが鳴った。 飛びつくような勢いでそれをとる。
はい、と応えると、少しの沈黙の後、富松だけど、と聞こえてきた。
いつも名前で呼んでいる相手に、名字で名乗られるとおかしな気がしてしまって、数馬の口から笑いが漏れる。
笑うと、少し気持ちが落ち着いた。
「今、行くね。」
それだけ言って、キッチンに用意していた荷物を取りに行き小さなバッグを肩にかけると、いってきます、と親に声をかけて玄関へ向かう。
先程までの慌てっぷりがすっと消えていたせいで、母はやはり不思議そうな面持ちになった。 それでも行ってらっしゃいと返される。
パタン、とドアが閉まった時、母は作兵衛という名を思い出した。
昔、数馬がよく口にしていた名前だった。
「作兵衛、それ重くない?」
数馬は荷物を渡してから、急にその重みが気になった。
作兵衛は男の子とはいえ、まだ小学生だ。 男女差で、それほど力の違いがあるとも思えない。
「平気だって。」
作兵衛はそんな数馬に、おざなりに応えて荷物を担ぎ直す。
「おれ、今でも結構鍛えてんだからよ。 ・・・数馬くらいなら、持ち上がるぜ。」
「うそだよ!」
間髪入れずに否定すると、作兵衛の顔が不機嫌にゆがんだ。
「んだよ、信じねえのか?」
「ううっ だって、ぼく重たいんだよ・・・。」
試してみて、実際持ちあがらなかった時のダメージが大きすぎる。 数馬は項垂れたがそれ以上は無理だとは言わなかった。
言えば確実に作兵衛の機嫌は悪くなるし、ここから駅まであと少ししかないのだから、せっかくの二人きりを険悪なまま過ごしたくない。
「えっと、作兵衛、あのね、」
「・・・いいよ、」
隣を歩く作兵衛におろおろと声をかけると、思うより柔らかな声が返ってきたので数馬は え、と声を出した。
作兵衛は気まずそうに数馬を見てから目を逸らす。
ぼそりと、何か言ったように思ったけれど、よく聞き取れなくて、数馬は聞き返した。
「なんて言ったの?」
「別に、・・・んなことよりさ、今日行く遊園地って行ったことある?」
「え、うん・・・?」
いきなり変わった話題に、数馬が首を傾げる。
(もしかして、作兵衛も同じこと考えて・・・?)
勘違いかもしれない。 でももし、作兵衛もほんの少しの二人きりを楽しく過ごしたいと思ってくれているなら、すごく嬉しい。
数馬の頬が、柔らかに緩む。
「おれらも何度も行ってんだあそこ。」
「そうなの? わー、意外に会わないもんだね。」
「・・・藤内とも行った?」
「うん、何度か行ったよー。」
ふうん、と作兵衛は相づちを打って、ふるふると首を横に振った。
「あ、藤内だ!」
数馬は見えてきた駅の方へ手を振ると、傍らの作兵衛に微笑む。
「今日、楽しみだね!」
作兵衛はなぜか軽く溜息をついてから、おう、と応えて笑った。
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