「じゃあ、何から行こっか。」
数馬が荷物をロッカーに預けて戻ってくると、男の子たちは絶叫からいくことにしたらしい。
ゲートから既に見える。 地上何十メートルの鉄骨、走る乗り物、叫び声。
あれなら何度か乗ったことあるなあ、と数馬が考えていると作兵衛が隣に来た。
「数馬荷物いいのか?」
「うん、預けてきたよ。 絶叫から行くんだね。」
「・・・おう、数馬はああいうの平気か?」
藤内は平気だって言ってたけど、と作兵衛は聞いた。
それでも本人に確かめる辺りが作兵衛だなあと思う。 心根がやさしいのだ、この男の子は。
嬉しくて自然微笑みながら、数馬は怖くないよ、と答えた。
「そっか」
作兵衛もにっかと笑って頷いた。
「数馬、メリーゴーランドに乗りたかったら一人で乗れよな〜」
三之助が、既に鉄骨へと向かいながら言葉を投げてくる。
数馬がなにか言い返そうと口を開いたとき、隣から吹き出す声が聞こえた。
思わずそちらを見ると作兵衛が肩を震わせて笑っている。
見れば他のみんなも程度は違うけれど、笑っていた。
「なに笑ってるの〜っ」
不服な気持ちでそういうと、前を歩く藤内が口を開く。
「数馬がメリーゴーランドってすごい似合ってるから・・・」
くくくと皆が頷いている。 隣を歩いている作兵衛も数馬をちらりと見て、またぶふっと吹き出した。
別にこのメンバーで乗りたいなんて思ってなかったもん、と少し拗ねたくなってくる。
数馬がむくれている内に、ジェットコースターまでついて列に並ぶ。
後ろのがより怖いから、という理由で三之助と藤内が後ろ。
前のが楽しいと言って、作兵衛と左門が前。
そして孫兵と数馬が真ん中に座った。
がたん、と、6人をのせた箱が動き出す。
それぞれにこの遊園地には来たことがあり、ジェットコースターにも何度か乗っている。
今さらこわいとは思わなくても、やっぱり高揚感はあった。
箱は徐々にスピードをあげながら、カーブを曲がりちょっとした坂を登り降りしつつ、上へ上へと登っていく。
数馬は、前に座る作兵衛を見た。 楽しそうに笑って左門となにか話している。
作兵衛の首に、ひとつほくろを見つけた。 この位置じゃないとわからなかったなあ、と思う。
隣で孫兵の笑う気配を感じて、数馬はそちらに顔を向けた。
「なあに?」
声はあっという間に風にさらわれたけれど、孫兵には通じたようでにこりと笑って返された。
「そうしてると、数馬だなって思うよ。」
孫兵は数馬に聞こえるようにと、その耳に口を寄せる。
その言葉の意味を図りかねて首をかしげると、孫兵は答えずにただ、もう一度笑った。
がくん、と機体が一瞬止まる。
「!」
孫兵との会話で、全く準備のできていなかった数馬は驚いて、息を詰めた。
「数馬の叫び、ちょっと本気じゃなかった?」
くすくすと藤内が笑うので、数馬は決まり悪げに言い訳をする。
「だって、油断してたんだよー、」
「手、離してたから、余裕なんだと思ってたよ。」
孫兵も笑っている。
「いつもは余裕だってば。 油断してたの!」
重ねて言い返しても笑いは大きくなるばかりで、数馬は諦めた。
(もう、笑いたければ笑え。)
ふてくされていると、三之助がなあなあと孫兵の肩に手をおいた。
「なんか仲良さそうに話してたな」
「うん。 数馬だねって。」
「は?」
機嫌よく言う孫兵に三之助は眉をしかめた。
正直、数馬も三之助と同じ気持ちで、孫兵を見る。
「見てれば、きっとみんなも思うよ。」
そう言って、室町だったらジュンコがいたであろう首元をそろりとゆびでなぞる孫兵に、5人は一様に首をかしげた。
--------------
「ティーカップ おっかしーっ」
「ぶはっ 三之助、回しすぎだっ」
「周りの景色が線に見える〜!!」
「三之助次は僕だ!」
「おー! 存分に回せ〜!」
「ちょ、逆回転・・・!?」
「酔う酔う酔う〜!」
ぎゃあぎゃあと叫び声を振り撒きながら、異様な速度で回るティーカップに、辺りの人間も笑いだす。
曲が止まり、よろよろと出てくる6人にくすくすと笑う声が送られた。
「あーくそ、迷子ども! 暴走しすぎだ!」
「うー、きもちわるい・・・」
「藤内大丈夫?」
「だめ、無理。」
青い顔で近くのベンチに座り込む藤内の背中を撫でていた数馬が、飲み物買ってくるねと立ち上がった。
どうせなので、預けた荷物も取りに行って皆の分も飲み物を買ってこようと、声をかける。
「なに飲む?」
「ん、数馬だけじゃ大変だろ。」
作兵衛は自分も行く、と数馬の横に並んだ。
「入れる袋も持ってるし、大丈夫・・・」
「いいから、ほら行くぞ。」
作兵衛はそう言ってさっさと歩き出す。
仕方なく、数馬も後を付いていった。 本当に、強引だけど、優しい。 作兵衛の後ろ姿が室町の頃に重なって数馬は首を振った。 今はあの時の作兵衛ではない。
なのに、優しさはどこまでも一緒だった。
自販機までは少し距離がある。 歩いているとちょっとした桜並木に出た。
「そういえば、春に来たのって初めてだ。」
「ぼくは、1度来たことあるよ。」
藤内のために急ぎ足になりながらも、二人は桜を見上げた。
満開の花は、後はただひたすら散るだけで。
それが、一番美しくて、一番切ない。
多分、…お互いに同じことを思い出してる。
数馬も作兵衛もそう感じながら、けれど、何も言わずに自販機へと急いだ。
「お茶、コーラ、サイダー、水っと、」
お札を入れて、ガチャガチャとボタンを押すと、ごとんごとんとペットボトルが落ちて来る。
「数馬、まだかなあ。」
作兵衛が飲み物を買う間に、数馬は荷物を取りに行っている。
飲み物を、数馬から受け取った袋に入れて、数馬を待つ。
ロッカーまで迎えに行こうかと思い始めた時、数馬がきた。
「ご、ごめんね、鍵が少しゆがんでたみたいで、開けるのに手間取っちゃった。」
「数馬・・・・・・。」
「不運って言ってもいいよ・・・・・・。」
諦めの口調で言われると、言いづらいじゃないかと作兵衛は苦笑する。
数馬は大きな荷物を提げて、戻ろう、と作兵衛を促した。
「と、おれ持つよ。」
ひょい、と作兵衛は数馬の手から荷物を取り上げる。
数馬は一瞬申し訳なさそうな顔をしたが、結局、ありがとうと言った。
ここで持つ、と言っても作兵衛は決してうんとは言わないだろうから。
それに、問答をするより藤内のことが気にかかってしまう。
「ごめん、遅くなっちゃったから、少し急ごう。」
作兵衛は目を細め、一つ頷いた。
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