今日はみんなで遊園地だ。
作兵衛は柄にもなく、鏡の前で自分をまじまじと見る。
(変な格好では、ないよな・・・・・・。)
別にいつもの格好なのだけど、気になって仕方ない。
何度かそうしてから、時計を見るとまだ待ち合わせには早い時間だった。
左門と三之助はもう起きているだろうか、全く今でも迷子の面倒を見ないといけないのかと思うとなにやら情けなくなってくる。
作兵衛が溜息をついた時、携帯が鳴った。 メールだ。
(まさか、数馬が来れなくなったとか・・・。)
嫌な想像をしてしまって首を横に振る。
携帯をとってディスプレイを見てみると、数馬ではなく孫兵だった。
「? 孫兵が俺にって珍しいな・・・・・・。」
意外に思いつつメールを開く。
「昨日言うの忘れてたけど・・・って・・・・・・!」
作兵衛は慌てて孫兵に電話をかける。 どういう訳だと問いただしたくなった。
1度目のコールが終わらないうちに孫兵がでる。
「作兵衛、ごめん、今思い出した。」
一言目がこれだ。 作兵衛は溜息をついて、お前なあ!と言う。
「どうせペットの事で頭いっぱいだったんだろ!」
ペットとは言わずもがなである。
「うん。 でも時間的には間に合うでしょ? お詫びに迷子たちは僕が面倒見るよ。」
「・・・それはすげえありがてえな・・・・・・」
文句を言うのも忘れて思わず作兵衛が言うと、電話の向こうで孫兵が笑う気配がした。
「いや、でも! 数馬に不審がられたらどうすんだ! 藤内は誰かが迎えに行くって、数馬に伝えてないんだろう!?」
「大丈夫でしょ。 そのすぐに悪い方に妄想すんのいいかげんやめろって。」
孫兵の呆れた声を聞きながら、作兵衛はおろおろと部屋を歩き回っていた。 それにそもそも、数馬と二人きりは、再会して以来初めてである。
「あのさ、確認したいんだけど。」
「お、おう?」
作兵衛はぴたりと歩くのを止めて、携帯に耳をすませる。 一つ息を吸い込んだ孫兵が言った言葉は、作兵衛を混乱させるのに充分だった。
「作兵衛って、数馬のこと好きなの?」
「ぶっはあ!!!?」
「きったな・・・!」
携帯越しだというのに、孫兵はそう言ったが、慌てふためく作兵衛には聞こえない。
「すすす好きって! だって会ったばっかりだぞ!」
「ああ、そうだっけ・・・。 だったらもっと普通にしてたら? 数馬に会うのにそんなそわそわしないでさ。」
「そ・・・!? そわそわなんてしてねえよ!」
「・・・・・・いいから聞け。 そんな態度だと数馬も困るだろ。 普通にしてろ。」
「普通って・・・・・・。」
「まあとにかく、数馬を迎えに行けよ。 じゃあ、後でな!」
「待・・・ッ」
ぶつっ
孫兵に素早く通話を切られてしまって、作兵衛は呻いた。 藤内からの伝言を伝え忘れた孫兵のメールを反芻する。
(多分、数馬は荷物多いから迎えに行ってやれって・・・!)
それなりに家は遠いので、とにかくもう出た方がいい。
念のため、と作兵衛は数馬にメールを打とうとメール画面を開く。
数馬のメールアドレスを開くだけで、なんでこんなに緊張するんだとひとり困惑しながら。
自転車を数馬の家に置かせてもらうつもりで、漕いでいく作兵衛は、インターホンを押して出るのが数馬じゃなかったらどうしようとぐるぐるする。
でも数馬が出てもどうしよう、だった。
そうこうしている内に数馬の家にたどり着く。
緊張しながらもインターホンを押すと数馬が出て、更に緊張した作兵衛は富松だけど、と名乗った。
くすりと笑う声が聞こえて、何かおかしかったかと忙しなく考えてしまう。 その間に数馬ははあい、と答えてすぐに扉が開く。
「おはよう、作兵衛」
「はよ・・・。」
数馬はいつもゆるく編んでいる髪をポニーテールにして、ふわふわしたスカートではなく動きやすい格好をしている。
数馬がショートパンツにレギンスなんて穿いてるのを初めて見たけれど、作兵衛は可愛いと思った。 口には出さなかったけれど。
「荷物それか?」
「え、あ、うん。 ごめんね、来てもらうほどのことじゃなかったんだけど。」
「や、でけえだろ。 なんだ? それ。」
数馬が抱えている袋はしっかりとマチがついていて、中身もそれなりの大きさがありそうだった。
受け取るとやはりそれなりに重い。
数馬は作兵衛の問いに曖昧な笑顔を浮かべると、観念したように答えた。
「みんなのお昼。 ・・・作ってみたんだ・・・・・・。 お、おいしいかわからないんだけど。」
「え、すげえ・・・。 昼楽しみだ。」
にわかに、作兵衛は笑顔になって数馬を見た。 数馬は一瞬目を瞠ってから、嬉しそうにはにかみ、ありがとう、と告げる。
「これ、結構な量だよな。 大変だったろ」
「そんなことないよ。 料理はいつもしてるし、それに、みんなに食べて欲しいって思っちゃったんだ。」
にこにこと言う数馬に、作兵衛は内心どきりとする。
(すげえ・・・。)
真実、楽しかったのかもしれない。 けれどだからといって、大変じゃないということにはならないと、作兵衛は思う。
ふわりと風が吹いて、花が香る。
数馬のポニーテールも風にそよいだ。
(今の作兵衛の気持ちで、今の数馬を見て)
少し前に藤内に言われた言葉を心の中で繰り返して、作兵衛は数馬を見る。
あたたかな笑みがそこにはあった。
嬉しくて。 嬉しくてたまらない。 数馬から受け取った荷物を大事に抱え直して、並んで歩く。
答えはこの時出ていたのかもしれない。
けれど作兵衛はそれには気付かず、駅に早く着きたいような、ずっと着かないでもいいような、どちらともつかないふわふわした気持ちで数馬の横を歩いていた。
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