「まさか、ここに小学生が入り込むとはな。」
くくく、と笑って立花仙蔵と名乗ったその人は、小さな6人を見た。
三之助も、どんでん返しに気づいてこの部屋にたどり着いていた。
仙蔵も、小平太も、先程屋敷に入ってきた文次郎も、紛れもなくあの学園でお世話になった先輩だと、疑う余地もなく6人は思った。
あの頃の記憶はまるでないようなのに、それでもこうして巡り会って友達をしているのだなあと思うと、感慨深くなる。
泣きたくなるほど嬉しいと感じるのが、不思議でもあり当然だとも思えた。
左門は包帯を巻かれた足をぷらぷらと振って潮江先輩、と呼んだ。
年下であるので、まあ、そういう呼び方もするだろうと、文次郎は納得したようだった。 なんだ、と返す。
「なんで、お化けだなんてことにしたんですか? それで、数馬の友達が困ってます!」
「だ、そうだ。 仙蔵。」
「ふむ。 それは悪い事をしたな。 有り体に言えば、まあ、ここを使ってるのを知られたくなかったからだな。」
「無断で使っているからですか?」
藤内が問うと、3人はぽかんとした。
小平太がその後でからからと笑い、それを否定する。
「いや、ここは仙蔵の家が所有している屋敷だ。 もう何年も使われていないから近所の人もすっかり空き物件だと思っているらしいが。」
「え? じゃあなんで、お化けのふりしてまでこっそりしてるんですか?」
数馬の問いに、仙蔵がいたずらっぽく笑んだ。
「その方が秘密基地っぽいだろう。」
その答えに、6人は脱力した。
ああ、もう、この人達は、いつまで経っても人迷惑なんだから!
心の声が聞けたならきっと綺麗にハモっただろう。
「しかし、小学生の女の子にそんな思いをさせてしまうのは忍びないからな。 堂々と使う事にしよう。」
仙蔵はそう言い、少し残念そうに笑う。
「そういえば、なんでこの屋敷はこんなにたくさん仕掛けがあるんですか? オレ、走り回ってる時、落とし穴やらの仕掛け、たくさん見たんですけど。」
三之助の言葉に小学生は一様に頷いた。
その様子を見て、仙蔵はにやと笑う。
「一つ、遊びで作ってみたら、楽しくてな。 落とし穴と言ってもいろいろあるぞ。 三反田が落ちた様な、一人目、二人目では落ちずに三人目で落ちるものだったり、落ちた先が出口に繋がっているものだったりな。」
「忍者屋敷みたいですね。」
孫兵が僅かに笑んで言うと、小平太が嬉しそうに、賛同する。
「さて、真相もわかった事だし、お前らはもう帰れ。」
文次郎に促されて、そうですね、と6人は立ち上がる。
いつの間にか、時計の針は夕方を差していた。
作兵衛が来た道を戻ろうと立ち上がると、仙蔵に首根っこを掴まれて引き戻される。
「ぐえ!」
「仕掛けがあると言っただろう。 そっちよりもこちらからの方が早く行ける。」
「まさか・・・」
さっき、出口に繋がる落とし穴と言ってなかったか、と作兵衛が思い返していると、仙蔵はまた人の悪い笑みを浮かべる。
「ほお、察しがいいな。 下敷きになって三反田を守ってやれ。」
「!」
赤くなる作兵衛に、やっぱりかと、仙蔵は呟く。
その後ろで左門が潮江先輩! と声を上げた。
「また、会えますか?」
「この辺歩いてりゃ、会う事もあるんじゃねえか? 俺らは大体ここにいるからな。」
その答えを聞いて、藤内、三之助も嬉しそうな顔になる。 この縁はここで終わるものではないようだ。
そうしていると悲鳴が聞こえた。 作兵衛の、その後で数馬の。 驚いてそちらを見る間もなく、次々と、ぽかりと開いた穴の中にほおりこまれる。
滑り落ちていくと、土の上に尻餅をついた。
屋敷の外へと、出されたのだった。



翌日、数馬は友人に真相を告げて感謝された事を、放課後家に帰ってから、作兵衛に携帯で話した。
「そんな愉快な人たちだったんだって、安心してたよ。」
「そか、よかったな。」
作兵衛が笑うので、数馬は気持ちが少し落ち着いた。
あのね、と数馬は小さく口にする。
「昨日は、ありがとう。」
「・・・え?」
「どうしてかな。 作兵衛がぼくの名前呼んでるの聞こえて、巻き込んじゃいけないって思ってたのに、作兵衛の顔を見たとたん、嬉しかった・・・から。 ・・・作兵衛はどうして、ぼくを庇ってくれるの? 女の子だから?」
どうしても、数馬はそこが引っかかってしまうから、聞いてみようと決めたのだ。
びょうと窓から吹く風は温かく、遅い春がやっとこの町にもやってきた事を知らせている。
風に髪が踊る。 ややあって、作兵衛の声が届いた。
「ちげえよ。 数馬だからだ。 ・・・それに昨日は、そもそも数馬を一人にしたのはおれだし。 あそこにいるのが先輩達だったからよかったけどさ、・・・怖い思い、させたのに、礼なんて言わないでくれ。」
落ち込んでいるような声音に、数馬は首を傾げる。
「作兵衛?」
「もっとさ、困った時は呼べよ。 巻き込めよ。 自分でなんとかできてもさ、一人でも傍にいれば、やれる事増えるかもしれねえだろ。」
「・・・呼んで、いいの?」
友達としてじゃなくても? 数馬は胸の内だけで言う。
「おう。 むしろ、呼べ。 ・・・必要としろよ。 おれ・・・らをさ。」
どうしてだろう、切ない。
そして、数馬だから、という言葉がどうしようもなく嬉しく思えた。
目を伏せて頬の熱さをやり過ごしていると、作兵衛が、数馬?と不安げに聞いた。
「あ、ごめんね。 ・・・作兵衛、ありがとう。」
「だから礼言うなよ! じゃあ、またな!」
「うん。 またね。」
通話終了のボタンを押して、数馬はふう、と息をつく。
「参ったなあ・・・。」
この時代でも、作兵衛をこんなにも好きになるなんて思いもしなかった。
同じように作兵衛も息を吐いている事を、知りもしない数馬は、何だか不公平みたい、と苦笑した。


おわり

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