「喜三太、しっかり押さえとけよ」
「はぁ〜い」
「しんべヱと平太はここに宛てる木材の補充を頼む」
「はいっ!」
「取りに行ってきます…」
トントンカンカンカン。
晴天の空の下、活発な声とリズミカルな金槌の音が響き合う。
ここは大川学園中等部の校舎裏。
一日の授業を終えた用具補修委員会中等部の4名は、裏庭の納屋修理に駆り出されていた。
『あいつらの活動って破壊工作なんじゃねぇの』
これは委員長食満留三郎の各委員会へのぼやきであるが、それを否定できないレベルで繰り返される備品の壊れっぷりにはメンバーも頭を抱えるしかない。
それ程彼らへの修理依頼は後を絶たないのだ。
ちなみにその食満は現在、毎度おなじみ体育委員会の備品修理に単身出張中である。
(ったく、これで経費削減だっつーんだからやってらんねぇよな)
重い息と共に生徒会への恨みを吐き出す作兵衛だが、その手を休める事はない。
各クラブ部室に倉庫に飼育小屋…未修理品がわんさか待機している今、嘆いている暇などありはしないからだ。
「…よし、あとはここを塞いで終わりだな」
「はぁ〜。やっとですねぇ」
二人が息をついたその時、大きな木材を肩に担いだしんべヱと平太がタイミングよく姿を現した。
「先ぱ〜い、お待たせしました!」
「おぅ、じゃあここに並べてくれ」
「はい…」
(…やけにでけぇの選んできたな)
その想像以上の厚さに眉根を寄せる作兵衛。
木材を肩から下ろす二人にぶつけない様注意しようとした瞬間、彼の悪い予感は的中する事となる。
「わ…っ、」
足下に置いた釘に乗り上げバランスを崩すしんべヱ、つられて後ろに倒れ込む平太。そんな彼の頭上を細長い影が覆う。
「平太!危ねぇ…っ!!」
「え?…、…!?」
ゴイン。
作兵衛の叫び虚しく、その場には重く鈍い音が響き渡った。
―――
――
「「新野先生ぇぇぇっ!!」」
――ズッパーーン!
「わっ?」
すさまじい力でドアを開き、ドカドカと足音を響かせる作兵衛と喜三太。
突撃部隊を思わせる勢いで保健室へと入室する二人であったが、そこに探し求める人物は見当たらず。
代わりに女子生徒が一人、丸椅子にちょこんと座っていた。
「先生は…居ねぇのか?!」
「新野先生は職員会議に出席中ですけど…そんなに慌ててどうされましたぁ?」
ゆったりとした口調で答えるのは、漆黒の髪を肩に流した華奢な体躯の少女。それを耳に受けた作兵衛は、声の主へと視線を移した。
「お前は鶴町か!確か平太のクラスメイトだよな?」
「はいそうですけど…ってあれ、平太だぁ。…そんな所で何してるの?」
「うん、ちょっとね…」
噛みつきそうな勢いで迫る作兵衛に後ずさる伏木蔵であったが、その背中に負ぶさった人物を見つけた途端愉快そうに声を弾ませる。
その辺は実にマイペースな彼女らしい反応である。
「木材で頭をガツンとやっちまったんだ。ちょっと見てやってくんねぇか?」
「えぇ、どこ打ったの?」
「ん、この辺り…」
いつも以上に青白い顔をみせながら椅子に腰を下ろす平太。彼が示す部位を覗きこんだ伏木蔵は、数秒後にあぁ…と小さく呟いた。
「――これは、皮下血腫ですねぇ」
「?ひ…か…?何だそれは」
「名前の通り、皮下組織にある血管が切れて血液が溜まっちゃった状態なんですぅ…あーあ、こんなに腫れちゃって…」
瞳を輝かせながらまじまじと頭を観察する伏木蔵に、彼女の性格をよく知る平太は楽しんでいるなぁと呆れ顔になる。
しかしその隣では、彼に負けず劣らずの蒼白な顔で戦慄する二人が居た。
「――おい、そんな名前初めて聞くぞ?もしかして大怪我なのか?!」
「伏木蔵、どうなのぉ?!」
「大変というより痛いですよぅ、一箇所に血が溜まっちゃう訳だし。…大丈夫だよ平太、今私が楽にしてあげるから」
にこり。
おもむろにアイスピックを取り出した伏木蔵は、口角を軽く引き上げる。
その笑顔に死神の影がちらついて見えるのは気のせいか。ガラガラと何やら準備を始める彼女の傍らで、作兵衛は頭を抱える。
(楽にしてあげるって何だ…?)
血液が溜まっているとか言っていたが、まさかあのアイスピックで頭をぶっ刺す気ではなかろうな。
保健委員とはいえ、そんな危険な事を一介の中学生が行ってもいいのか?いいはずがねぇ!
もし一歩間違えたら重傷…それどころか出血多量で命の危機も――?!
妄想スイッチがONになった作兵衛の頭は斜め上の方向へと加速する。
「待て、早まるな!もう少し安全な方法で平太を助けてやってくれ!頼むからそれだけは…!」
「うわぁぁん新野先生、早く来てぇぇぇ!」
「…!ぅぐっ、」
「…あのぅお二人共、平太の首絞まっちゃってますよ。これ何てサスペンス?」
混乱した作兵衛と喜三太に全力でしがみ付かれた平太は、青とも紫ともつかない顔色で唸っている。
二人を注意しつつも止める気の無さげな伏木蔵も、ある意味共犯者である。
この状況を鎮められる者は居ないのか。
霞む意識の中で平太が一人ごちた時、開きっぱなしの扉に新たな人影が現れた。
(――これは一体…何事?)
影の正体もとい数馬は、ただならぬ室内の雰囲気に入室する事を一瞬躊躇する。
口から魂を覗かせながら唸る平太、その首元に涙目で絡み付く二人。そして三人の様子を眺めながら口癖の「スリル〜」を連発する伏木蔵…
何これさっぱり状況が掴めない。
室内を見渡しながら頭を混乱させる数馬であったが、気を取り直して言葉を紡いだ。
「――えっと、皆。どうしたのかな…??」
バッ。
一気に集まった視線に数馬の肩がビクリと跳ねた時、平太の首元にしがみ付いた作兵衛が声をあげた。
「!…数馬っ、お願いだ、平太を、平太を…っ…」
助けて下さあぁぁぁい!!
「…――えぇっ?!」
保健室の中心で叫ばれたその台詞は、昔みた恋愛映画のような緊迫した空気で数馬へと伝えられた。
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